2024年の半導体市場、本格回復はメモリ次第 〜HBMの需要増で勢力図も変わる?:湯之上隆のナノフォーカス(69)(5/5 ページ)
半導体市場の本格的な回復が予想されている2024年。鍵を握るのがメモリだ。本稿では、DRAM/NAND型フラッシュメモリの価格推移と企業別売上高の動向から、半導体市場の回復基調の時期を探る。さらに、そこから読み取れる、メモリメーカーの“栄枯盛衰”を示す。
総括
2023年に落ち込んだ世界半導体市場は、2024年に回復して、過去最高の出荷額を記録すると予測されている。そのカギを握るのは、DRAMとNANDを含むメモリ市場の回復である。
DRAMもNANDも、2022年Q2以降、大きく出荷額が減少した。その減少は2023年Q1で底を打ったが、同年Q3に向かって、DRAMが回復し始めているのに、NANDは横ばいだった。その理由を分析した結果、次の結論を得た。
まず、2023年Q3の価格をみると、どちらも前四半期よりダウンしているが、そのダウンの幅がNANDよりDRAMの方が小さかった。つまり、2023年Q3の価格低下は、DRAMの方が軽微だったといえる。次に、NVIDIAのGPUの需要が急拡大し、GPUに搭載されるHBMのトップシェアメーカーのSK hynixのDRAMの売上高が急拡大した。売上高シェアで見れば、1位のSamsungまでわずか4.6%まで接近している。
つまり、DRAMはNANDほど価格が下落しなかったことに加えて、SK hynixがHBMの売上を伸ばしたことによって、2023年Q1からQ3にかけてDRAM全体の出荷額が拡大したと言えよう。
一方、NANDでは、2023年Q1からQ3にかけて、SKグループは売上高を増やしたが、Samsungは横ばいで、キオクシアが売上高の低下に歯止めがかからず落ち続けている。要するに、NANDは、DRAMより価格下落が大きかった上に、KIOXIAの売上高低下が足を引っ張ったことにより、NAND全体の出荷額が横ばいになったと思われる。
今後の展望
では、DRAMとNANDが2022年のピーク付近まで出荷額が回復するのはいつになるだろうか? DRAMもNANDも2023年Q4以降は、価格がプラスに変動すると予測されている。加えて、DRAMでは、ビット単価の高いHBMの生産量が急拡大する。となると、DRAMが2022年のピーク付近に回復するのは、2024年の初旬から中旬にかけてではないか。
一方、HBMのような高価なチップがないNANDでは、2022年のピーク付近に回復するのは、もう少し後になるだろう。2024年の中旬から下旬頃になるのではないか。
さらに、HBMの生産量次第では、DRAM市場でSK hynixがSamsungを抜く、いわゆる下克上が起きる可能性がある。一方、NANDの売上高の低下が止まらないキオクシアは危機的状況であり、何らかの再編が起きるかもしれない。
いずれにせよ、ことし2024年はメモリ業界から目が離せない。
筆者プロフィール
湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長
1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年に渡り、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。
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