熱電材料の発電能力を大幅向上、AlGaAs/GaAs界面の2DEGを用い 大阪大ら:ゼーベック係数が大幅に増大
大阪大学と物質・材料研究機構(NIMS)は、AlGaAs/GaAs界面の二次元電子ガス(2DEG)を用いて、熱電材料の発電能力を大幅に向上させることに成功した。熱電変換出力因子の増大率は、従来の2DEGに比べ4倍となる。
自立型電源としてIoTセンサーなどとのワンチップ化に期待
大阪大学大学院基礎工学研究科の中村芳明教授と物質・材料研究機構(NIMS)の間野高明グループリーダーらによる研究グループは2024年1月、アルミニウムガリウムヒ素(AlGaAs)/GaAs界面の二次元電子ガス(2DEG)を用いて、熱電材料の発電能力を大幅に向上させることに成功したと発表した。熱電変換出力因子の増大率は、従来の2DEGに比べ4倍となる。
研究グループは今回、三角井戸2DEG*)を用いて複数のサブバンド間のエネルギー距離を接近させる方法に注目した。従来の2DEGは、単一サブバンドの電子伝導のみを利用していた。これに対し今回は、複数のサブバンドを有する三角井戸2DEGを用いることで、ゼーベック係数が大幅に増え(複数サブバンド効果)、熱電変換出力因子の増大が可能になると考えた。
*)異種半導体のヘテロ接合等によって生じる三角井戸型ポテンシャルに電子が閉じ込められて形成される2DEG。
実験では、AlGaAs/GaAs構造を用いて、「単一サブバンド」と「複数サブバンド」を有する、2種類の2DEG薄膜を作製し、熱電変換出力因子を評価した。この結果、複数サブバンドを有する2DEGの熱電変換出力因子は約100μW cm-1K-2となり、単一サブバンドを有する2DEGのそれを大幅に上回った。さらに、従来理論の熱電変換出力因子増大率と比べ、複数サブバンド2DEGは4倍になることを確認した。
研究グループは、自立型電源としてIoT(モノのインターネット)センサーなどとのワンチップ化が可能になるとみている。
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