補助金の遅れや労働者不足……TSMCやIntelの米国新工場が直面する課題:戦略の見直しを迫られる企業(2/2 ページ)
CHIPS法などによって自国内での半導体の製造を強化を狙う米国だが、その成果の象徴として扱われるTSMCのアリゾナ工場をはじめ、IntelやMicron Technologyなど工場建設の遅れが目立っている。本記事では新工場建設において企業が直面している課題についてまとめている。
労働力確保における課題
特にオハイオ州やアリゾナ州のような新興の製造拠点では、労働力の確保に関する懸念が大きな障害となっている。製造所の建設や運営に必要な専門技能は、地域によっては容易に入手できない場合もあるため、的を絞った訓練プログラムや人材獲得戦略が必要となる。
さらに、労働組合との労使関係をうまく調整し、公正な賃金を保障することも、持続可能なアプローチの重要な要素だ。
アリゾナ州では、TSMCの新工場によって2万1000人の建設雇用が創出されると予想されるほか、施設の従業員として4500人、関連サプライヤーではさらに数千人の雇用が創出されると見積もられている。
しかし2023年、安全違反や労働組合との対立、そして建設の遅延が表面化し、このプロジェクトの実現可能性と米国の半導体生産への影響について疑問が呈された。
TSMCは、遅延の原因は市場の不確実性と労働力の問題だとしているが、内部関係者は混乱や管理の不手際という見方を示している。頻繁に行われる計画変更や不明確な指示、台湾の請負業者と現地の労働者とのコミュニケーションや調整の不備など、問題は多岐にわたるという。
2023年、台湾から500人規模の労働者を派遣するTSMCに対し、アリゾナ州の労働組合が労働者ビザ発給を中止する申し立てを行ったことは、組合とTSMCの緊張関係を浮き彫りにしている。TSMCは、これらの専門家は重要な建設段階に不可欠であると主張したが、労働組合はこれを米国の雇用を弱体化させ、賃金を引き下げようとする試みと見なした。
アリゾナ州建築建設労働者協議会の会長を務めるAaron Butler氏は、「TSMCは、アリゾナの労働者には経験とスキルが不足していて、そのためにアリゾナの労働者を 『訓練 』するための臨時労働者が必要なのだと主張している。しかし、これらの臨時労働者がどのような訓練を提供するのか、また訓練がどのように実施されるのかについて、請負業者とのやりとりはない。実際のところ、アリゾナの労働者は十分な能力を備えていて、今すぐにでも半導体の需要に応えられる」と述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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