ハイブリッド磁性体で強いフラストレーションを実現:新たな物理現象を生み出す原動力に
東京大学と東北大学は、英ラフバラー大学や独ライプニッツ固体・材料研究所と共同で、有機分子と硫酸銅が積層した有機無機ハイブリッド物質の磁気的性質を調査し、幾何学的フラストレーションの効果が極めて強い二次元磁性体であることを明らかにした。
低温で磁気秩序を持たない未知の量子状態を実現している可能性も
東京大学物性研究所の石川孟助教と石井裕人助教、東北大学金属材料研究所の清水悠晴助教らは2024年5月、英ラフバラー大学や独ライプニッツ固体・材料研究所と共同で、有機分子と硫酸銅が積層した有機無機ハイブリッド物質の磁気的性質を調査し、幾何学的フラストレーションの効果が極めて強い二次元磁性体であることを明らかにした。
幾何学的フラストレーションとは、スピンの幾何学的な状況により、磁性体内におけるスピン間の相互作用が満たされることが妨げられる効果である。例えば、「三角形の上でスピンを反対向きに並べようとしても、全てのスピンを反対向きにできない」という。このような原子配列を持つ物質は、新しい物理現象を生み出す可能性が高いといわれている。
研究グループは今回、スター格子と呼ばれる、三角形を基にした二次元ハニカム格子にスピンが並んだ有機無機ハイブリッド物質の単結晶を合成し、その磁気的性質を調べた。この結果、「0.1Kという極めて低い温度まで磁気秩序が現れない」ことや、「105テスラまでの磁化曲線において階段状の変化が生じる」ことが分かった。
また、三角形内の相互作用は三角形間の相互作用に比べて強いというモデルで説明できることも明らかにした。三角形内の相互作用が強いほど、幾何学的フラストレーションの効果が働き、フラストレーションはさらに強くなるという。
研究グループは今回用いたハイブリッド磁性体について、低温で磁気秩序を持たない未知の量子状態を実現している可能性があるとみている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ペロブスカイト型ニオブ酸ルビジウムを高圧で合成 新たな強誘電体開発の鍵に
芝浦工業大学は、ファインセラミックスセンターや東北大学、学習院大学、東京大学と共同で、高圧法により「直方晶ペロブスカイト型のニオブ酸ルビジウム」を合成することに成功した。 - 交互積層型の電荷移動錯体で高伝導化に成功、有機電子デバイスへの応用に期待
東京大学らの研究グループは、ドナーとアクセプターの分子軌道を混成することで、交互積層型電荷移動錯体の高伝導化に成功した。大量合成が可能な塗布型有機伝導体材料として、有機電子デバイスへの応用に期待する。 - 空間分解能が約100nmの中赤外顕微鏡を開発
東京大学は、中赤外フォトサーマル顕微鏡に新たな技術を導入し、約100nmという空間分解能を実現した。開発した顕微鏡を用い、細菌内部のたんぱく質や脂質といった生体分子の分布を観察することに成功した。 - 磁性半金属の特殊な磁性をゲート電圧で変調
東京大学の研究グループは、磁性半金属である「テルル化クロム」の特殊な磁性を、ゲート電圧で大きく変調することに成功した。スピントロニクスデバイスへの応用が期待される。 - 日本伝統の「和装柄」がヒントに 半導体の高度な熱管理につながる技術
東京大学は2024年4月5日、日本伝統の和装柄である青海波(せいがいは)から着想を得て、熱を運ぶ粒子の「フォトン」の指向性を利用することで、熱伝導の異方性を温度で逆転させる構造を実現したと発表した。発熱の激しい先端半導体などの熱管理技術への応用が期待される。 - 「金属元素を使わない」 カーボン系材料のみで相補型集積回路を開発
東京大学とNTTの研究チームは、パイクリスタルや東京工業大学とともに、カーボン系材料のみで構成された「相補型集積回路」を開発した。金属元素を含まない材料で開発した電子回路が、室温大気下で安定に動作することも確認した。