米国の半導体製造能力、2032年までに3倍に増加へ:SIAが発表、CHIPS法の効果で
米国半導体工業会(SIA)とBoston Consulting Groupの調査によると、米国の半導体産業支援策「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」制定後の2022〜2032年までの10年間で、米国内の半導体製造能力が203%増加する見込みだという。同期間中のこの増加率は米国が世界最大になるとみられる。
米国半導体工業会(SIA:Semiconductor Industry Association)とBoston Consulting Groupは2024年5月、世界の半導体サプライチェーンについての新しい報告書「Emerging Resilience in the Semiconductor Supply Chain(半導体サプライチェーンにおける新しいレジリエンス)」を発表した。それによると、米国の半導体産業支援策「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」制定後の2022〜2032年までの10年間で、米国内の半導体製造能力が203%増加する見込みだという。自国の半導体産業を強化する施策は世界各国で進められているが、同期間中のこの増加率は米国が世界最大になるとみられる。
CHIPS法の効果は絶大
世界の半導体製造能力に占める米国の割合は、2022年時点で10%で、2032年には14%へと増加する見込みだ。米国の半導体製造シェアは数十年間縮小を続けていたが、この期間に拡大に転じることになる。CHIPS法がなければ2032年には8%に、さらに低下していたとみられる。
CHIPS法制定以前の10年間(2012〜2022年)、米国の半導体製造能力の増加率はわずか11%だった。10nm以下の先端ロジック製造のシェアについても、2022年時点では0%だったが、2032年には28%に拡大すると予測される。
2024年から2032年にかけての世界の設備投資総額は、台湾が全体の31%を占め、米国が28%で続くという。仮にCHIPS法がなければ、米国の占める割合は9%程度にとどまっていたと推測される。
Texas Instrumentsの会長でSIAの理事長を務めるRich Templeton氏は、CHIPS法による投資の加速について「効果的な政策によって、米国半導体産業への投資が加速している。こうした投資は米国が世界の半導体製造と技術革新におけるシェアを拡大し、さらなる経済成長と技術競争力を手にするのに役立つ」と見解を述べ、「政府と半導体業界との協力関係を継続、拡大することで、この勢いを確実なものにし、次のステップに進むことができる」と述べている。
米国は半導体設計やEDA、製造装置といった高付加価値分野で強力なリーダーシップを維持している。報告書では、米国がサプライチェーンの脆弱性に対処し、半導体製造シェア拡大を続けるためには、政府の追加支援策が必要になる、としている。
SIAの社長兼CEO(最高経営責任者)であるJohn Neuffer氏は、「CHIPS法は、米国の半導体生産とR&Dの大幅な強化を軌道に乗せた。しかし、この仕事を終えるにはまだやるべきことがある」とし、「政治リーダーと協力して政策を推進することを楽しみにしている。STEM人材の供給経路を広げ、科学研究に投資し、自由貿易とグローバル市場へのアクセスを促進し、そしてCHIPS法の補助金を拡大/延長したい」とコメントしている。
CHIPS法の施行以来、半導体企業は米国の25州で80以上の新規プロジェクトを発表していて、投資総額は4500億米ドルにも達する。これによって5万6000人以上の雇用が生まれ、関連してさらに数十万人の雇用が生まれたという。
各国の政策で半導体投資が活発化、供給過剰の懸念も
同報告書内では、各国政府と半導体業界がレジリエンス強化に向けてどのように強調しているかを紹介している。米国ではCHIPS法の枠組みで半導体製造への補助金として390億米ドルを用意し、さらに先端製造投資への税額控除も設けた。欧州は「欧州半導体法(European Chips Act)」を発表し、中国も政府系半導体投資ファンドの第3フェーズを開始した。これに合わせ、企業は既存地域/新規地域の両方で大規模な投資を行ってきた。2013〜2022年の世界の設備投資は7200億米ドルだったのに対し、2024〜2032年には2兆3000億米ドルの設備投資が行われる見込みだ。
一方で同報告書は、産業政策によってサプライチェーンリスクの増大につながる新たな課題が生まれる可能性にも触れている。補助金や大規模な支援策が市場原理に基づかない投資を促進し、生産基盤の過集中や供給過剰をもたらせば、半導体サプライチェーンがリスクにさらされることになる。同報告書は政府の補助金について「きちんと対象を定め、分散して、かつ市場原理に基づいた形で行われるべきだ」としている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 世界半導体市場、24年1Qは前年同期比15.2%増の1377億ドルに
米国半導体工業会によると、2024年第1四半期(1〜3月)の世界半導体売上高は、前年同期比15.2%増の1377億米ドルに成長したという。なお、2024年3月単月の売上高は前月比0.6%減の459億米ドルだった。 - CHIPS補助金でTSMCがAI半導体製造へ 米国は半導体リーダーに返り咲けるか?
TSMCに対する米国の補助金によって、米国は初のAI(人工知能)チップの生産能力を手にし、技術的リーダーシップを確立する強力なチャンスを得るとみられる。ただし、米国の半導体産業の復活のためには労働力不足が依然として大きなマイナス要因だという。米国EE Timesのインタビューでアナリストらが語った。 - 半導体製造装置の販売額、2023年は1063億ドルで前年比1.3%減
SEMIは、半導体製造装置(新品)の2023年世界総販売額が約1063億米ドルになったと発表した。2022年の約1076億米ドルに比べ、1.3%減少した。地域別では中国が首位で、韓国と台湾の上位3地域で世界市場の72%を占めた。 - CHIPS法、次の大型支援獲得はMicronか アナリストの見解
「CHIPS and Science Act」(CHIPS法)に基づく米国政府の半導体企業支援の今後の見込みについて、米国EE Timesがアナリストらに聞いた。アナリストらによると、Micron Technologyが次に大型の支援を獲得する見込みだという。 - Intel、CHIPS法の補助金を「ようやく」獲得 最大85億ドル
Intelは、半導体製造拠点拡大に向けて米国政府から最大85億米ドルの補助金支給を受けると発表した。最大110億米ドルの融資資格も得る見込みで、同社が既に発表している5年間で1000億米ドル規模の投資と合わせると米国の半導体産業で過去最大級の投資額になる。