低次元超伝導体でSiCとの界面に「カルシウム金属層」:大規模な量子コンピュータ実現へ
東京工業大学と分子科学研究所の研究グループは、グラフェン−カルシウム化合物において、支持基板であるSiC(炭化ケイ素)との界面にカルシウム金属層が形成されることを発見した。金属層の影響で超伝導転移温度が上昇するため、温度耐性に優れた量子コンピュータを実現できるとみている。
金属層によって生じる「ファン・ホーベ特異性」が転移温度上昇に寄与
東京工業大学と分子科学研究所の研究グループは2024年6月、低次元超伝導体であるグラフェン−カルシウム化合物において、支持基板であるSiC(炭化ケイ素)との界面にカルシウム金属層が形成されることを発見したと発表した。金属層の影響で超伝導転移温度が上昇するため、温度耐性に優れた量子コンピュータを実現できるとみている。
東京大学と東北大学の研究グループは、「元素置換法」と呼ばれる合成方法を用い、2016年にカルシウムとの合成による2層グラフェンの超伝導化に成功していた。東京工業大学の研究グループは、東京大学との共同研究で元素置換の過程を調べた。ところが、原子構造と超伝導特性の関係性を明らかにするまでには至らなかったという。
東京工業大学の研究グループは今回、グラフェン−カルシウム化合物を合成するための新たな手法を開発した。真空中で高い流量のカルシウム蒸気を2層グラフェンに吹き付けるという方法だ。光電子分光法によって合成過程も明らかにした。この結果、カルシウムが高密度になれば、2層グラフェンの間だけでなく、支持基板であるSiCとの界面にもカルシウムが侵入することが分かった。
電子回折法で原子構造を調べた。界面のカルシウムはSiC表面の原子と整合した配列であることを確認した。しかも、超伝導転移温度は金属層が形成されたことによって上昇することが分かった。さらに、角度分解光電子分光法と第一原理計算の結果から、転移温度上昇には、金属層によって生じる「ファン・ホーベ特異性」と呼ばれる現象が寄与していることが判明した。
研究グループは今後、より微細な超伝導体を実現するため、「カーボンナノチューブ」や「フラーレン」といったクラスター状物質の超伝導化に取り組む。また、ホウ素や水素など軽い元素を用いることで転移温度をさらに上昇させ、温度耐性に優れた量子コンピュータの実現を目指すことにしている。
今回の研究成果は、東京工業大学理学院物理学系の一ノ倉聖助教、徳田啓大学院生(研究当時)、平原徹教授、豊田雅之助教(研究当時)、斎藤晋名誉教授および、分子科学研究所の田中清尚准教授らによるものである。
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