電極界面の接触抵抗を約3桁も低減したIGZO-TFT:電極にパラジウムを採用
東京工業大学は、水素と触媒反応を利用し、金属と半導体界面の接触抵抗を従来に比べ約3桁も低減させた「アモルファス酸化物半導体(IGZO)トランジスタ」(IGZO-TFT)の開発に成功した。
キャパシターが不要な次世代2T0Cメモリへの応用に期待
東京工業大学国際先駆研究機構元素戦略MDX研究センターの辻昌武特任助教とShi Yuhao(施宇豪)大学院生、細野秀雄特命教授らによる研究チームは2024年4月、水素と触媒反応を利用し、金属と半導体界面の接触抵抗を従来に比べ約3桁も低減させた「アモルファス酸化物半導体(IGZO:InGaZnOx)トランジスタ」(IGZO-TFT)の開発に成功したと発表した。
IGZO-TFTは、フラットパネルディスプレイ(FPD)用途で広く採用されているIGZO技術をベースとした薄膜トランジスタ(TFT)。移動度が高く高速での読み書きが可能なため、キャパシターが不要な次世代2T0C(2トランジスタ/0キャパシター)メモリなどへの応用が期待されている。ただ、TFTをnmスケールで集積していくと、金属と半導体界面の接触抵抗が大きくなり、移動度や電力消費などに悪影響を及ぼしていた。
研究チームは今回、高い水素透過能を備え、水素分子を解離する触媒金属でもあるパラジウム(Pd)を電極として用いた。保護膜としてはアモルファスZnSiOx(ZSOx)を採用した。
デバイスの外部から内部界面へ、高活性の原子状水素を輸送して界面を効率的に還元し、金属中間層を生成する手法を用い、接触抵抗が6.1Ω・cmのIGZO-TFTを実現した。この手法は、界面近傍のみを選択的に反応させることが可能である。このため、チャネル層へのダメージを防ぐことができ、デバイスの安定性を維持したまま、高移動度を実現した。
研究チームは、チャネル長が30μmのボトムコンタクト型IGZO-TFTを作製し、接触抵抗と実効チャネル長の偏差に対する水素アニール処理依存性を評価した。開発した手法を用いることで、埋もれている電極−半導体界面に対しても、効果的な処理を行うことが可能となった。
これにより、未処理の場合に3kΩ・cmであった接触抵抗が、後処理を行うことで6Ω・cmに改善されたという。また、150℃の温度で10分間の水素処理を行うことで、パターニングされたチャネル長に対する実効チャネル長の偏差は44nmに抑えることができたという。
また、TFTがオン時(VG=20V)に抵抗成分中の接触抵抗は約80%あったが、水素処理を行うと極めて小さくなった。この結果、TFTの電界効果移動度は20cm2/Vsまで向上した。デバイスの安定性については、水素処理の前後において大きな変化は見られなかった。さらに、トップコンタクト型TFTでも同等性能が得られることを確認した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「金属元素を使わない」 カーボン系材料のみで相補型集積回路を開発
東京大学とNTTの研究チームは、パイクリスタルや東京工業大学とともに、カーボン系材料のみで構成された「相補型集積回路」を開発した。金属元素を含まない材料で開発した電子回路が、室温大気下で安定に動作することも確認した。 - 300GHz帯フェーズドアレイ送信機、全CMOSで開発
東京工業大学と日本電信電話(NTT)の研究グループは、300GHz帯フェーズドアレイ送信機について、アンテナや電力増幅器を含め全てCMOS集積回路で実現することに成功した。6G(第6世代移動通信)で期待される100Gビット/秒超の送信レートを実証した。 - 東京工大らが「超分子液晶」を作製 新たな電子デバイスの開発に期待
東京工業大学と大阪公立大学は、棒状の有機π電子系分子にアミド結合を導入することで、非水素結合性の「超分子液晶」を作製することに成功した。開発した超分子液晶を大面積に塗布する技術も開発した。 - 磁気抵抗メモリの高性能化に向けた新原理を発見
東京工業大学は、非磁性体の「TaSi2」において、フェルミレベル近傍にバンドの縮退点(ベリー位相のモノポール)を配置することにより、高温下でスピンホール効果を増大させる新原理を発見した。SOT(スピン軌道トルク)方式を用いる磁気抵抗メモリについて、高温下での性能改善が期待される。 - 転写可能なCNT透明導電ナノシート、マルアイが開発
紙製品・化成品メーカーのマルアイは、転写可能な「カーボンナノチューブ(CNT)透明導電ナノシート」を開発した。ガラスやゴム、木材などさまざまな素材や曲面に貼り付ければ、容易に導電性を持たせることができる。 - 乾電池1本(1.5V)で発光する青色有機ELを開発
東京工業大学や富山大学、静岡大学らの研究グループは、電圧1.5Vの乾電池1本で発光させることができる「青色有機EL」の開発に成功した。開発した有機ELは、青色発光(波長462nm)を印加電圧1.26Vで確認、1.97Vでは発光輝度が100cd/m2に達した。