セルロース樹脂を用い半導体型CNTを選択的に抽出:分離精製のコストを大幅に抑制
京都工芸繊維大学、奈良先端科学技術大学院大学および、産業技術総合研究所(産総研)は、優れた温度差発電性能を有する「半導体型CNT(カーボンナノチューブ)」の抽出方法を開発した。抽出剤としてはアルキル化セルロースを用いた。
優れた温度差発電能力を活用、環境発電への応用に期待
京都工芸繊維大学の野々口斐之准教授、奈良先端科学技術大学院大学の河合壯教授および、産業技術総合研究所(産総研)の桜井俊介研究チーム長らは2024年7月、優れた温度差発電性能を有する「半導体型CNT(カーボンナノチューブ)」の抽出方法を開発したと発表した。抽出剤としてはアルキル化セルロースを用いた。
半導体型CNTは、透明で柔軟性に優れた薄膜トランジスタや、CNTコンピュータなどへの応用が注目されている。優れた温度差発電能力(熱電変換特性)を備えていることが分かり、環境発電への応用も期待されている。
ただ、単層CNTは半導体型と金属型の混合物として生成される。このため、トランジスタ材料や発電材料の高機能性インクとして用いるには、半導体型CNTだけを安価に、かつ大量に分離する必要がある。既に、密度勾配超遠心分離法などいくつかの分離技術が提案されているが、産業用途で用いるには量産性や精製コストが課題となっていた。
研究チームは2022年に、アルキル化セルロースの一種である「エチルセルロース(EC)」が、CNTの有機溶媒への分散・抽出剤になることを明らかにした。そして今回、アルキル化セルロースを抽出剤として用い、半導体型CNTを選択的に抽出する方法を開発した。
実験では、エチル基やブチル基、ヘキシル基、オクチル基をそれぞれ置換したセルロースを用いた分散液を用意し、紫外可視近赤外吸収スペクトルを測定した。この結果、半導体型CNTの分離選択性は、アルキル化セルロースの側鎖長によって変化することが判明した。
特に、ヘキシルセルロース(HC)を用いて分散したCNTは、金属型CNTに由来する吸収(M11)がほとんど見られなかった。また、分離精製していないCNTは、遠赤外線吸収(プラズモン共鳴)の吸収がみられたが、HCを用いて抽出した半導体型CNTは、プラズモン共鳴の吸収がほとんど観測されなかったという。
詳細な分析により、アルキル化セルロースを用いると、約98%の選択性で半導体型CNTの抽出が行えることを定量的に確認した。さらに、共鳴ラマンスペクトルからも半導体型CNTの高い選択性を確認した。分離選択性はアルキル化セルロースの置換基の種類以外にも、濃度や分子量、溶媒の種類に依存することが分かった。
左は異なる側鎖長のアルキル化セルロースを用いた分散液の紫外可視近赤外吸収スペクトル。中央はHCと分散ポリマー「F127」を用いて分散したCNT膜の赤外吸収スペクトル。右はHCとF127を用いて分散したCNT複合膜のラマンスペクトル[クリックで拡大] 出所:京都工芸繊維大学他
成膜したCNTの熱電特性を調べた。HCで抽出した半導体型CNT膜の熱起電力は、分離精製していないCNTと比べ3〜4倍も大きい(化学酸化による高ドーピング状態において約100μV K-1)。また、このCNT膜は未精製CNT膜の約10倍、従来の導電性高分子抽出法による半導体型CNT膜に比べ約3倍の電力因子(283μW m-1 K-2)となった。
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