一般的な中性子源で、半導体ソフトエラー率を評価:迅速な信頼性評価が可能に
量子アプリ共創コンソーシアム(QiSS)で、京都大学大学院情報学研究科の橋本昌宜教授が主導する産学連携のソフトエラー研究グループは、一般の中性子源を用いて、半導体チップの地上ソフトエラー率を評価する方法を開発した。
任意の中性子源による測定結果とシミュレーションを組み合わせ
量子アプリ共創コンソーシアム(QiSS)で、京都大学大学院情報学研究科の橋本昌宜教授が主導する産学連携のソフトエラー研究グループは2023年6月、一般の中性子源を用いて、半導体チップの地上ソフトエラー率を評価する方法を開発したと発表した。
半導体チップが誤動作する要因の一つに、ソフトエラーがある。宇宙線(宇宙空間に存在する放射線)が大気と反応することで中性子が発生。これによって、半導体チップにエラーが発生する現象である。自動運転車や介護ロボットなどに搭載される半導体チップは、これらの影響を受けないよう高い信頼性を確保することが重要で、設計の段階からソフトエラー率を考慮しておく必要があるという。
ところが、半導体チップのソフトエラー率を地上で評価するにはこれまで、世界に5つ(うち、国内に1つ)しかない特殊な中性子源を用いて実験を行う必要があった。そこで研究グループは、電子機器の信頼性評価を迅速に行えるよう、これ以外の一般的な中性子施設でも地上ソフトエラー率が求められる方法を検討してきた。
今回の実験では、3施設7種類の中性子源でソフトエラーを測定するとともに、放射線挙動解析コード「PHITS」を用いたシミュレーションにより解析。任意の中性子源による測定結果とシミュレーションを組み合わせることで、地上ソフトエラー率を求めることに成功した。
地上環境のソフトエラー率の見積もり手順。上左図は測定用施設、上右図は測定値より求めたシミュレーションのノイズ電荷量(Qfit)、下図はシミュレーションで得られたソフトエラー発生確率と地上の中性子スペクトル 出所:京都大学他
半導体チップのソフトエラー発生確率は、中性子のエネルギーとノイズ電荷量(Qfit)によって異なる。実験では、測定結果からシミュレーションのQfitを求めた。Qfitが決まると、ソフトエラー発生確率と中性子エネルギーの関係が分かるため、地上の中性子エネルギー分布と組み合わせて計算すれば、地上のソフトエラー率を求めることができるという。
今回は65nmテクノロジーで設計した1V動作のSRAMを用いて実験した。これにより、用いた中性子源によるソフトエラー率の違い(最大値と最小値の比)が、2倍以内に収まることを確認した。今後、65nm以下の微細なテクノロジーで製造された半導体チップでも、同様の評価が可能かどうかを確認することにしている。開発した評価手法については、世界標準規格として採用されるよう標準化機関に働きかけていく予定。
ソフトエラー研究グループには、日本原子力研究開発機構の安部晋一郎研究副主幹、佐藤達彦研究フェロー、ソシオネクストの加藤貴志氏(信頼性技術担当)、HIRECの浅井弘彰副主席技師、日立製作所の新保健一研究員、京都工芸繊維大学の小林和淑教授、九州大学の渡辺幸信教授らが参画し、研究開発を行っている。
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