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強誘電体の膜中に光導波路を形成した超高速光変調器:170ギガボーレート以上で変調動作
九州大学は、シリコン基板上に強誘電体(PLZT)薄膜を結晶成長させる方法を開発し、「超高速光変調器」を作製することに成功した。6G(第6世代移動通信)を支える高速光データ伝送や、光量子コンピュータなどの用途に向ける。
6Gを支える光データ伝送や光量子コンピュータなどに応用
九州大学先導物質化学研究所の横山士吉教授らによる研究グループは2024年7月、シリコン基板上に強誘電体(PLZT)薄膜を結晶成長させる方法を開発し、「超高速光変調器」を作製することに成功したと発表した。開発した光変換器は長さが2.5mm、動作効率は従来製品に比べ10倍以上で、170ギガボーレート以上で変調動作することを確認した。6G(第6世代移動通信)を支える高速光データ伝送や、光量子コンピュータなどの用途に向ける。
今回開発したPLZT薄膜は、ゾルゲル化学反応により金属酸化物を生成する化学的手法を用いた。具体的には、シリコン(SiO2/Si)基板上に前駆体化合物をスピンコートし、熱処理することでペロブスカイト型結晶薄膜を作製した。
こうして得られたPLZT薄膜の電気光学係数は、汎用的な電気光学結晶(ニオブ酸リチウム)に比べ10倍近い値となった。また、PLZT膜中に光導波路を形成し、光変調器を作製した。開発したPLZT変調器は、レーザー光の波長が1550nmの長距離通信用および、同1310nmの短距離通信用と、いずれの波長にも対応できるという。
PLZT変調器の熱安定性試験も行った。この結果、100℃以上という高温環境でも信号生成に問題がないことを確認した。レーザー光に対する耐性にも優れ、材料の劣化もなかったという。
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