性能低下を回避して長寿命を実現 小型酸素センサー:銀溶出がない新規の参照極を開発
産業技術総合研究所(産総研)は、テクノメディカや東北大学、富士シリシア化学および、筑波大学らと共同で、新規開発の参照極を用い、連続使用が可能な「長寿命小型酸素センサー」を開発した。
酸素センサーの大きさは直径2.5mm、従来のほぼ半分に
産業技術総合研究所(産総研)は2024年8月、テクノメディカや東北大学、富士シリシア化学および、筑波大学らと共同で、新規開発の参照極を用い、連続使用が可能な「長寿命小型酸素センサー」を開発したと発表した。
従来の小型酸素センサーは、基板上に「作用極」や「対極」、「参照極」を設け、これらの電極を電解液やガラス透過膜で覆う構造となっている。作用極と対極には白金(Pt)が用いられており、この間を流れる電流値を測定すれば血中の酸素分圧を測定できる。この時、参照極と作用極間に一定電圧を印加することによって、測定精度を保証している。
ただ、参照極に銀/塩化銀(Ag/AgCl)を用いる従来の小型酸素センサーでは、ここから溶出した銀が作用極上に析出して汚染される。このため、正確な酸素分圧を測定できないなど課題もあった。
研究グループは今回、酸素センサーの参照極にプルシアンブルーを高分散担持したグラフェン被覆多孔性シリカ球(PB/G/PSS)を用いた。具体的には、比表面積の大きな多孔性シリカ球の表面を、導電性のあるグラフェンで被覆した。さらに、塩化銀と比べ溶解度積が約1031分の1と低い酸化還元反応を示すプルシアンブルーを担持することで、参照極に求められる特性を実現した。電極はプリント印刷で形成している。酸素センサーの大きさも、PB/G/PSSを参照極にすることで直径は2.5mmとなり、従来の半分にできるという。
試作した酸素センサーを用い、酸素分圧90mmHgの水溶液を連続的に流通させて、電流値がどのように変化するかを測定した。参照極にPB/G/PSSを用いた酸素センサーは、5日間で約−8nAと安定した電流値を示した。作用極上への析出物も確認できなかったという。一方、参照極にAg/AgClを用いた酸素センサーは、20時間後の電流値が約−13nAまで変化。作用極上に銀が析出していることも分かった。
研究グループは今後、開発した小型酸素センサーを血液ガス分析装置に組み込んでいく予定である。これにより、医療現場での連続分析が可能となる。
今回の研究成果は、産総研化学プロセス研究部門ナノ空間設計グループの伊藤徹二主任研究員、長谷川泰久研究グループ長らと、テクノメディカ方式開発部の吉田朗子主任ら、東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)の西原洋知教授(多元物質科学研究所兼務)ら、富士シリシア化学の井澤謙一研究開発グループリーダーら、筑波大学大学院医学学位プログラム小児外科学分野の藤井俊輔医師(現在は東京都立病院機構東京都立小児総合医療センター)らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 東北大ら、クロム窒化物で高速な相変化機能を発見
東北大学と慶應義塾大学、漢陽大学校(韓国)、産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、クロム窒化物(CrN)が高速な相変化によって電気抵抗が大きく変化することを発見した。CrNは環境に優しく動作電力を低減できることから、相変化メモリ(PCRAM)の情報記録材料として期待されている。 - セルロース樹脂を用い半導体型CNTを選択的に抽出
京都工芸繊維大学、奈良先端科学技術大学院大学および、産業技術総合研究所(産総研)は、優れた温度差発電性能を有する「半導体型CNT(カーボンナノチューブ)」の抽出方法を開発した。抽出剤としてはアルキル化セルロースを用いた。 - 基準電圧源を取り外し可能な「高精度DMM」を開発
産業技術総合研究所(産総研)は、基準電圧源の脱着が可能な「高精度デジタルマルチメーター(DMM)」を、エーディーシーと共同で開発した。DMM本体は別の基準電圧源を内蔵している。このため、取り外した基準電圧源を校正中であっても、DMMは生産工程でそのまま利用できる。 - 量子ビット制御超伝導回路を提案、原理実証に成功
産業技術総合研究所(産総研)は、横浜国立大学や東北大学、NECと共同で、大規模量子コンピュータに向けた量子ビット制御超伝導回路を提案し、原理実証に成功した。1本のマイクロ波ケーブルで1000個以上の量子ビットを制御することが可能となる。 - 熱流と垂直方向に発電する新しい熱電材料を開発
産業技術総合研究所(産総研)と島根大学は、熱流と垂直方向に発電する新しい熱電材料「ゴニオ極性材料」を開発した。室温より高い温度域で使用する場合でも、熱劣化が生じにくい熱電モジュールの開発が可能となる。 - グラフェンの層間にアルカリ金属を高密度に挿入
産業技術総合研究所(産総研)と大阪大学、東京工芸大学、九州大学および、台湾国立清華大学の研究グループは、グラフェンの層間にアルカリ金属を高い密度で挿入する技術を開発した。電極材料としてアルカリ金属を2層に挿入したグラフェンを積層して用いれば、アルカリイオン二次電池の大容量化が可能になるという。