Apple「R1」が示した空間コンピュータの進化の方向性:「Vision Pro」用プロセッサ(2/2 ページ)
Appleが2024年2月に米国で発売した「Vision Pro」。そこに搭載されているプロセッサ「R1」は、Appleが提案する「空間コンピュータ」という新たなカテゴリーのデバイスにおける進化の方向性を示している。
「R1」には何が搭載されているのか
それでも、R1向け主要SoCの大きな部分が残っている。
この設計は、製品要件を達成するためにかなり大規模なものとなっている。しかし、分解の専門家や技術系メディアが何度も言及していたにもかかわらず、Appleはそこに“センサーコプロセッサ”を搭載していないということが分かる。
チップセットを見ると、Lattice Semiconductor(以下、Lattice)のFPGA「iCE40 Ultra」が搭載されていることが分かる。内部からの情報なしに設計の方向性について多くを語ることはできないが、FPGAの有用性は、ハードウェア設計にアルゴリズムを極めて迅速にコード化する上での効果的な手段であり、その迅速性と引き換えに、シリコンの物理的なカスタム設計の効率性を手に入れることができる。iCE40のデータシートでは、センサーフュージョンハブとしてのその機能性が強調されている。
Vision Proの空間コンピューティングは、さまざまな外部のモーション/位置センサーからの感覚入力処理に大きく依存している。Appleが外部のセンサーハブを使用して入力を統合し、LatticeのFPGAで事前処理を行っているという可能性を見逃すことはできないだろう。
しかし、R1チップそのものには何が搭載されているのだろうか。
“センサーコプロセッサ”に関する言及は、少なくとももっと広い意味では全く的外れというわけではない。LatticeのFPGAハブで扱われるセンサーの種類は、モーションセンサーが中心となっている可能性がある。モーション処理は、空間コンピューティングプラットフォームの重要な側面ではあるが、視覚処理と比べるとデータ量はごく少ない。
ここで、われわれは実際にR1チップ設計の分解を行っていく。
R1の設計は、人間の立体視覚を模倣している。アーキテクチャの大半は、両目用に分割されていて、ヘッドセットのデュアルディスプレイを動作させることができる。AppleのR1は、リアルタイム処理を提供し、M2プロセッサ上で動作するOSやビデオに現実世界の環境を重ね合わせることが可能だ。
Apple R1には、単なる2つのブラックボックス以上のものがある。幸いにも、フランスの市場調査会社Yole Groupが、その半導体チップアーキテクチャのさらなる詳細を明らかにしたレポートを提供し、さまざまな設計要素のパーティショニングや配置についても掘り下げている。
Yole Groupのレポート「Apple - APU - Co-Processor R1 - From Apple Vision Pro」によると、この設計では、モーションセンサーからオーディオへのセンサー入力が、Vision Proプラットフォームに配置されている現実世界の追跡カメラに統合されているという。R1 System-in-Package(SiP)には、SK HynixのLLW DRAMが搭載されており、大規模ビデオデータセットのリアルタイム動作を実現することができる。
Appleはこれまで、「発明者」というよりも、「新しい技術の完成者」として位置付けられてきた。こうした考えはVision Proにも当てはまるが、それはほんの一部分に限られる。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)のゴーグルは決して新しいものではないが、“没入型の空間コンピュータ”というアイデアは新しい。
Appleは最初の空間コンピュータプラットフォームを発表することで、より主導的な役割を果たしたように見える。第2世代のVision Proの開発を中止すると報道されたAppleは、“殉教者”ともいえるかもしれない。第2世代の開発は中止すると報じられたが、廉価版が市場に投入されるとのうわさもある。
市場での成功はさておき、Vision Proは多くの技術的教訓を与えてくれた。R1というAppleのシリコンは、同社初となる空間コンピュータプラットフォームのコンセプトと、同セグメントの進化の方向性について洞察を与えてくれるのではないか。
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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