AI需要で盛り上がるデータセンター冷却の新技術:水がいらない液冷や固体冷却も(3/3 ページ)
AI(人工知能)ワークロードの需要に対応するためにデータセンターが増加する中、冷却システムの重要性も増している。今回、水がいらない液冷や固体冷却など、近年登場してきた革新的新技術をまとめた。
冷媒を使わない固体冷却
独自のアプローチでデータセンター冷却に取り組む企業は他にもある。Phononicは、半導体冷却にソリッドステート技術を使用していて、コンピューティングだけでなく、他のさまざまな用途にも使用できる。EE Timesのインタビューに応じたPhononic CEOのTony Atti氏は、「持続可能性の次の課題は冷媒に関連する排出物だ。だからこそPhononicのソリッドステート技術は大きな可能性を秘めている」と語った。同技術は冷媒を一切使用しないからだ。
同社の固体熱電デバイス(サーモエレクトリッククーラー、TEC)は、実績のあるサーモエレクトリックの原理と、いわゆるペルチェ効果を利用しているという。TECに電流を流すと、熱を一方から他方へ移動させる。各TECは半導体材料でできた「レッグ」で構成され、キャリアを使って熱を移動させる。
レッグは、n型半導体のレッグとp型半導体のレッグから成るペアで配置されている。TECに電流が流れると、キャリアは全て同じ方向に移動し、熱をデバイスの片側からもう片側に伝える。
「当社は顧客から提供された仕様に基づいてカスタム設計を行う。われわれに何ができるかを理解してもらったら、反復的な設計プロセスが始まる」(Atti氏)
Phononic社のアクティブで応答性の高い熱伝導へのアプローチは、チップ以外にも適用できる。同社のソリッドステート技術は、環境に優しいだけでなく、拡張性に優れていて、広い用途の空調や冷凍にも使用できるとしている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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