AMDがSilo AIを買収完了 NVIDIAの牙城に迫れるか:欧州最大の民間AI研究機関
AMDは2024年8月、欧州最大の民間AI(人工知能)研究機関であるSilo AIの買収を完了した。Silo AIの高度な技術や人材、顧客基盤を活用して、AMDはNVIDIAが支配する生成AI市場でシェアを獲得できるのか。
AMDは2024年8月、欧州最大の民間AI(人工知能)研究機関であるSilo AIの買収を完了した。AMDがSilo AIを約6億6500万米ドルで買収する正式契約の締結を発表した2024年7月から、わずか1カ月での買収完了となった。当初、買収手続きは2024年後半に完了する予定だった。AMDのCEO(最高経営責任者)であるLisa Su氏と同氏の率いるチームが発表していたスケジュールに対し、予定通りどころか予想をはるかに上回る速さで買収を実行したのだ。
Silo AIは、高度な技能と実績を持つAI科学者/エンジニアたちを輩出するだけでなく、独自のAIモデルやプラットフォーム、ソリューション、確立された顧客基盤も備えている。Silo AIの既存顧客の大半は欧州の企業で、AllianzやRolls-Royce、Unileverといった一流企業を含む。AMDは自社のAIソリューションを強化しながら、将来の取引に向けたグローバルな顧客基盤を手にすることになる。
戦略的には、今回の買収は最適なタイミングで行われた強力な組み合わせだといえる。生成AIは現在、初期の実験段階から価値創造の段階へと移行しつつあり、企業は売上高と純利益の両方を増加させるために自らの力を活用する方法を見つけ出そうとしている。生成AIの力を活用する上で鍵となるのは、企業の特定ニーズに合わせて、企業独自または専用のデータで大規模言語モデル(LLM)を迅速かつ低コストでトレーニングできるようにすることだ。
Silo AIによってAMDは、AMDベースのプラットフォームを含むあらゆるAIインフラを利用する潜在顧客にこうしたソリューションを提供できるようになる。さらに、AMDが同社のプラットフォーム向けに最適化された新しいオープンソースLLMを開発することによって、フルスタックのソリューションで競争力を高めることができる。そして、AMDがSilo AIの専門技術を利用して、NVIDIAの「CUDA」で開発されたモデルをAMDの「ROCm」モデルに移植し、NVIDIAベースのプラットフォームからAMDベースのプラットフォームへの移行をサポートすることも、決して無理なことではない。
現在、生成AI市場はNVIDIAが主導している中、AMDは貴重な競合勢力の筆頭だ。しかし、既に実績があるNVIDIAから市場シェアを獲得するには、潜在顧客が可能な限り負担なく低コストでAMDに移行できるようにサポートする専門知識が必要だ。Silo AIの買収は、AMDがこうした目標を達成し、顧客にカスタマイズされたAIモデルやソリューションを提供していく上で、大きな一歩となる。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 世界半導体市場、24年2Qは1621億ドルで過去最高 NVIDIA好調で
英国の市場調査会社Omdiaによると、2024年第2四半期の世界半導体売上高が過去最高の1621億米ドルとなったという。NVIDIAの成長がけん引役となった。 - 「欧州半導体法」で主導権争いに加わるEU 世界シェア20%を目指す
EUは「欧州半導体法」を制定し、半導体業界における競争力とレジリエンス強化を目指している。同法に基づいて430億ユーロの資金が調達される予定で、既に複数の工場や研究開発施設の建設プロジェクトが進行している。 - AI需要で盛り上がるデータセンター冷却の新技術
AI(人工知能)ワークロードの需要に対応するためにデータセンターが増加する中、冷却システムの重要性も増している。今回、水がいらない液冷や固体冷却など、近年登場してきた革新的新技術をまとめた。 - まだ絶好の買い場!? 株価は下落しても業績は安泰のNVIDIA
NVIDIAの2025年1月期第2四半期業績が発表された。その内容は事前のガイダンス通りだったが、株価は下落した。株価下落はNVIDIAの業績や今後の見通しに大きな変化はない、と見ている。だが、かなりインパクトの大きなニュースとして報道されたので、独自の見解をここで述べておく。 - 推論性能でNVIDIAに挑む AIチップは「省エネ」が競争の軸に
推論ベンチマーク「MLPerf」の最新ラウンドのスコアが公開された。その結果からは、AI用プロセッサの新たな競争の軸が、性能そのものよりも「電力効率」に移りつつあることが読み取れる。