SiCを低コスト化できるか 米装置メーカーのCMP技術:Axus Technologyが開発(2/2 ページ)
米Axus Technologyが提供するCMP(化学機械研磨)装置は、SiCウエハーのコストを大幅に下げる可能性がある。
「硬くてもろい」、SiCウエハー
SiCデバイスウエハー向けのCMPプロセスでは、材料特性が複雑であるために、シリコンよりも重要な課題が立ちはだかっている。SiCウエハーはもろいため、破損を最小限に抑えるには特殊なキャリアとハンドラーが欠かせない。さらにSiCは、硬度がダイヤモンドと同程度であるため、処理時間を長くするなど、(Siウエハーよりも)厳しい条件での加工が必要になる。
SiCウエハーは、バンドギャップが広く(WBG:ワイドバンドギャップ)、無色透明なので、処理中のウエハーの位置を検出することが難しい。さらに、SiCウエハーの厚みはSiウエハーの約半分なので、処理中に保持することが難しく、クラックやチッピング(欠け)が生じやすい。またSiCウエハーは、その薄さのために圧力の影響を受けやすく、高度なハンドリング技術や柔軟なシステムアーキテクチャが必要だ。
AxusのCEO(最高経営責任者)であるDan Trojan氏は米国EE Timesのインタビューで、AxusのCMPに対するアプローチが、特にSiCやGaN(窒化ガリウム)などのWBG材料において、既存手法とは大きく異なることを強調した。同氏は、「当社のCapstoneプラットフォームは、独自のアーキテクチャを採用していて、高性能CMP機能には不可欠とされるフレキシブルかつ高効率なプロセスシナリオを提供する。既存のCMPツール設計は、WBG材料によってもたらされる特殊な需要を想定していなかった」と述べる。
同氏は、「高性能ツールアーキテクチャと、新しいサポート技術の開発/統合を組み合わせることで、消耗品の利用を大幅に改善できる。これにより、プロセスと生産品質の両方を高めながら、コストを削減できる」と続けた。
WBGプロセスの最適化における最初の難関は、in-situプロセス温度管理にある。これは、WBG材料の硬度が高く、より厳しいプロセス条件を必要とするためだ。さらに、SiCウエハーで150mmから200mmへの移行が進んだことも、さまざまな課題を生み出している。
Capstoneのアーキテクチャは、ハードウェアやソフトウェア、プロセス/消耗品を変更する必要なく、両方のウエハーサイズを交互に、さらには同時に処理することが可能だ。Trojan氏は、「ウエハーの移行に必要な作業を簡素化できる」と強調する。
またCapstoneは、統合型のCMP後洗浄を提供する点でも注目されている。CMP後洗浄は、欠陥率の低いポストCMP基板の作成や、歩留まりの向上および最適化において非常に重要だとされている。Capstoneは、制御システムの実行速度や分散制御アーキテクチャ、製造実行システム(MES:Manufacturing Execution System)の統合、高度なデータ収集、規格準拠などにおいて最先端技術を取り入れている。
市場投入をいかに早めるか
もう1つ重要な焦点となっているのが、SiC/GaNチップの市場投入期間の短縮だ。特にWBGデバイスの場合、基板コストがデバイスコスト全体の最大50%を占めることもあり、コストは重要な要素の一つになっている。Trojan氏は、「シリコンベースのデバイスの場合、デバイスコスト全体のうち、基板そのもののコストに起因しているという部分は、ほとんど無視できる。だがWBGデバイスの場合、製造コストの削減が極めて重要だ」と述べる。
「AxusのCMP技術は、こうした点で重要な役割を担う。Axusは、Capstoneの高効率アーキテクチャや高スループット、消耗品の効率的な使用などにより、競合ツール/プロセスの半分以下のTCOで、高度なシングルウエハーSiCのCMP性能を提供できる。このような製造コストの大幅な削減は、AI(人工知能)やEVなどの市場においてWBGデバイスの普及を加速させていく上で非常に重要だ」(Trojan氏)
【翻訳:滝本麻貴、田中留美、編集:EE Times Japan】
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