Intelの資金難、Samsungの生産遅れ…… CHIPS法に危機:補助金を回収する可能性も(2/2 ページ)
IntelやSamsung Electronicsなど、米国のCHIPS法が支援する大手半導体メーカーの生産に遅れが出ている。これは、米国政府の景気刺激策が期待通りの成果を上げられない可能性を示している。
大型投資は市況に合わない…… 苦闘する半導体メーカー
Samsungは、DoCがCHIPS法に基づいて同社に60億米ドル以上の景気刺激策支援金を条件付きで交付すると決定したにもかかわらず、テキサス州テイラーの新工場の立ち上げを延期している。
Samsungは2024年4月30日の四半期決算発表で、テイラー工場プロジェクトの生産開始を2024年後半から「おそらく2026年に」延期すると発表した。同社は2021年に、同プロジェクトに170億米ドルを投資すると発表している。
技術調査会社であるTechInsightsのバイスチェアマンを務めるDan Hutcheson氏は、「SamsungはCHIPS法での支援に対するコミットメント達成に向け、明らかに苦闘している。これは実際には、より大きな業界トレンドの一部だ。2024年の半導体市場はAI(人工知能)とそれ以外で明暗が分かれている。いくつかの製品と市場は目覚ましい成長を遂げているが、半導体業界の大部分は低迷している」と述ベている。
同氏は、「CHIIPS法で支援を受ける半導体メーカーが負う責任は、現在の市場状況に合致していない」と付け加えた。
「資金援助の保留は、CHIPS法が目指していた米国での半導体製造の支援とは逆の結果をもたらしている。半導体企業の首を絞めることになっているのだ」とHutcheson氏は指摘する。
DoCはEE Timesに対し、「Intel、Samsung、その他のCHIPS法支援企業に対する補助金は、企業が一連の不特定のマイルストーンを達成することを条件に交付されることになっている」と説明した。
DoCは2023年2月の声明で、「CHIPS法の資金はプロジェクトのマイルストーンに連動して分割で支給される」と述べている。さらに、「指定された目標期日までにプロジェクトが開始および終了しなければ、CHIPSプログラム事務局は補助金の最大全額を段階的に回収できる」としている。
親会社以外の大口顧客がいないIntel Foundry
Hutcheson氏によると、Intelの米軍向けの生産は、幅広い顧客にファウンドリサービスを提供する能力があると示すには不十分だという。
同氏は、「関係者全員にとっての問題は、PCの量産なしには歩留まりと信頼性を向上させられないことだ。これまでは、Intelの主力であるPC向けチップによって十分に工場を稼働し続けるられたが、少量の軍事生産では、学習サイクルが少なすぎる」と分析する。
Triolo氏は、「Intelの問題は、米国政府がSecure EnclaveやCHIPS法などのプログラムを通じた資金提供によって対応できる範囲を超えている」と指摘する。
同氏はEE Timesに対し、Intelの問題には「2つの大きな要因が絡んでいる」と語った。「まず、Intelの製造部門、特にIntel Foundryは、TSMCやSamsungから大口顧客を引き離して獲得することに苦労している。NVIDIAの先進的なGPUのような主要製品で2つの主要サプライヤーを持つことは、非常に高コストとなることから、厳しい状況だ」(Triolo氏)
Triolo氏は、「Intelの設計部門は、TSMCに実績があることから、先進的な設計にはTSMCを使用することを好んでいる」と指摘し、「Intelの製造部門は、先進ノードでの問題の克服に苦戦している」と付け加えた。
同氏はまた、「Intelの中国からの売り上げは、同社全体の4分の1に相当することもあったが、米国の輸出規制により、過去5年間で確実に減少している。Huaweiなどの中国企業はIntelの汎用半導体の主要な顧客で、Intelのファウンドリサービスの顧客にもなり得たことを考えると、影響は非常に大きい」と述べている。
Hutcheson氏は、「Secure Enclaveの補助金は、米国がIntelに投げた命綱ともいえる」と言う。
「これは、喫緊の課題だ。この補助金がなければ、Intelは骨身を削らざるを得ないだろう」と同氏は述べている。
EE Timesの取材に応じたアナリストらによると、Intelは不採算のファウンドリー部門を独立した事業体として分離するまでにまだ何年もかかるため、現金を必要としているという。Intel Foundryには親会社以外の大口顧客がいない状態だ。
Bernstein Researchのシニアアナリストを務めるStacy Rasgon氏はEE Timesに対し、「Intelは多額の現金を消費しているため、あらゆる方法で現金を探し求めている。Pat Gelsinger氏は(CHIPS法の)補助金を得る必要があった」と語った。
中国などの戦略的敵対国から切り離された軍事サプライチェーンを構築するにあたって、米国はIntelを戦略の鍵として位置付けている。2年前、Intel Foundryは米軍を最大の顧客にすることを目指していた。それ以来、Intel Foundryはより大きな顧客を狙ってきた。
Intelは2024年9月16日、 Amazon Web Services(AWS)との関係を拡大すると発表した。Intel Foundryは、2025年に生産開始予定の「Intel 18A」プロセスノードでAWS向けのAIファブリックチップを製造するという。
Gelsinger氏は、「より広範に、Intel 18A、『Intel 18AP』『Intel 14A』にまたがる追加の設計について、AWSと緊密に連携していくことを期待している」と発表の中で述べている。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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