空冷と液冷の違いを基礎の基礎から理解する:福田昭のデバイス通信(475) AIサーバの放熱技術(8)(2/2 ページ)
今回は、空冷(空気冷却)技術と液冷(液体冷却)技術の違いを説明する。
対流冷却に適した空気の特性
上記のように、空気は放熱材料(冷却媒体)としてはあまり適していない。にもかかわらず空気冷却(空冷)が利用されるのには、いくつかの理由がある。材料コストが極めて低い、非常に軽い(重さを無視できる)、容器の形状に応じて自由に変形できる、などだ。放熱の原理には熱伝導ではなく、対流を利用するのに適した性質を備えている。
放熱を考えたときに空気が特に重要なのは、軽いことと、温度によって質量が変わることだろう。発熱体(熱源)によって空気が温められると、自然に軽くなって上昇する。そして発熱体の表面には温度の低い空気(重い空気)が自然に入り込む。この「自然空冷」と呼ばれる対流冷却技術は、動力が不要なのでエネルギー消費がなく、故障することもないという優れものだ。
ただし自然空冷の冷却能力はあまり高くない。対流冷却では熱伝導率ではなく、「熱伝達率」を指標として放熱能力(冷却能力)を把握する。自然空冷の熱伝達率は5〜25W/(m2・K)であり、実装基板の熱流束密度だと300W/m2〜400W/m2に相当する(実際には諸条件によって異なる)。
標準的なプリント基板の大きさは大型基板(Lサイズ)が0.51m×0.46mなので、面積では0.23m2になる。300W/m2〜400W/m2の熱流束密度から単純に換算すると、自然空冷で放熱可能な消費電力は100W前後であり、かなり少ないことが分かる。
そこでファンを活用した強制対流方式の空気冷却技術(強制空冷技術)に変更すると、熱伝達率は自然空冷の5倍〜10倍と大きく増加する。さらに強制対流方式では、空気の風速と経路を制御できるという利点がある。発熱密度の高い領域で空気の風速を高めることで、実装基板全体で許容可能な消費電力を増やせる。
強制対流方式でも空気ではなく、水を放熱媒体に使うと冷却能力が大幅に高まる。熱伝達率で比較すると強制対流方式の水冷は、強制対流方式の空冷と比べて10倍〜30倍の冷却能力がある。このため、強制対流方式の水冷技術を組み込んだラックマウントサーバが実用化されている。ラック当たりで許容可能な消費電力は100kWに達する。この方式については次回で説明しよう。
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