アモルファス CrGT薄膜で巨大な抵抗変化を観測:ウェアラブルセンサー向け新材料
京都大学と東北大学の研究グループは、ポリイミド基板上に形成したアモルファス Cr2Ge2Te6半導体(CrGT)薄膜が、約6万という極めて大きなゲージ率になることを発見した。これは他の半導体材料に比べ2桁以上も大きい値だという。
引っ張りひずみによる「き裂の発生と進展」が主な要因
京都大学と東北大学の研究グループは2024年10月、ポリイミド基板上に形成したアモルファス Cr2Ge2Te6半導体(CrGT)薄膜が、約6万という極めて大きなゲージ率になることを発見したと発表した。これは他の半導体材料に比べ2桁以上も大きい値だという。
半導体材料は、ひずみによる抵抗変化(圧抵抗効果)が金属材料に比べ、数倍〜数十倍も大きく、ひずみ検出用デバイスの材料として注目されている。半導体材料は、ひずみによる抵抗変化に加え、結晶格子がゆがむことによって抵抗率自体が変化する。このため、抵抗はより大きく変化するという。ただ、シリコンなどの半導体材料は、高温でのドーピング処理が必要なため、融点が低いポリイミド基板などに薄膜を形成することが難しかった。
研究グループはこれまで、アモルファスCrGT薄膜が耐熱性に優れ、抵抗率が低くなることを明らかにしてきた。そして、ポリイミド上に形成したアモルファスCrGT薄膜は、ひずみが生じることによって極めて大きな抵抗変化を示すことを確認した。しかも、スパッタリング法を用いて成膜を行う。このため高温熱処理が不要となり、柔軟な基板への適用が可能なことも実証した。
研究グループは、ポリイミド上に形成したアモルファスCrGT薄膜の試作品を用い、ひずみの負荷・除荷によるアモルファスCrGT薄膜の抵抗変化メカニズムを調べた。この結果、引っ張りひずみによる「き裂の発生と進展」が巨大抵抗変化の主な要因であることを突き止めた。また、ひずみ除荷によりき裂が完全に閉じれば、抵抗値は初期値に戻ることも明らかになった。このことは、ポリイミドの弾性変形範囲におけるひずみ領域内では、繰り返し利用できることが分かった。
さらに、ポリイミド上にアモルファスCrGT薄膜を配置した簡易なウェアラブルセンサーを試作し、動脈の脈波を明瞭に検出できることを実証した。今後は、アモルファスCrGT薄膜に発生する「き裂」の定量評価や耐久性を検証していく。また、CrGT以外のぜい性半導体薄膜における圧抵抗効果などの研究にも取り組む予定である。
今回の研究成果は、京都大学の王吟麗(オウ・ギンレイ)特定助教(研究当時は東北大学大学院工学研究科大学院生)と東北大学大学院工学研究科の須藤祐司教授(材料科学高等研究所兼務)、東北大学材料科学高等研究所(WPIAIMR)の双逸(シュアン・イ)助教、同大学大学院工学研究科の金美賢(キム・ミヒョン)大学院生(現在は特任助教)、安藤大輔准教授、および同大学大学院環境科学研究科の成田史生教授らによるものである。
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