リチウムイオン電池がよみがえる 負極の再利用手法を開発:再生した電池は「新品同様」に
東芝は、リチウムイオン電池の酸化物負極を低コストかつ低環境負荷でリサイクルできる「ダイレクトリサイクル手法」を開発した。再生電極を用いた電池は、新品とほぼ同じ97%以上の活物質容量を持ち、充放電に伴う容量低下も新品と同等であることを確認した。
バージン材と比べ、カーボンフットプリントを最大85%低減
東芝は2024年11月6日、リチウムイオン電池の酸化物負極を低コストかつ低環境負荷でリサイクルできる「ダイレクトリサイクル手法」を開発したと発表した。再生電極を用いた電池は、新品とほぼ同じ97%以上の活物質容量を持ち、充放電に伴う容量低下も新品と同等であることを確認した。
東芝は、商用車に適した酸化物負極電池を開発している。黒鉛負極の電池に比べ、高出力で長寿命といった特長がある。しかも、酸化物負極は黒鉛に比べリサイクルがしやすいという。ただ、ダイレクトリサイクルを実現するには課題もある。それは、リサイクルプロセスにおける活物質の構造安定性である。
東芝が開発した酸化物負極粒子「ニオブチタン酸化物(NTO)」は、安定した活物質構造を持っている。このため、熱処理のみで活物質の特性を維持しつつ、負極中のNTOを接着するバインダー成分を分解し、集電箔から剥離、分離させることができる。
しかも、電極のリサイクル工程では低温で熱処理を行うことができ、回収した活物質は不純物成分を除去した後、そのまま再利用が可能だという。リサイクルのための環境負荷も小さい。
なお、今回リサイクルした「リサイクル材」は未使用の「バージン材」と比べ、カーボンフットプリント(CFP)を最大85%も低減できることが分かった。
「バージン材」と「電池製造工程における廃材を模擬した電極からリサイクルした活物質」および、「EOL(End of Life)までの劣化を模擬した電池からリサイクルした活物質」の性能比較。左は活物質容量、右はサイクル特性[クリックで拡大] 出所:東芝
東芝は当面、製造工程で生じる電極の端材など、廃材をターゲットにリサイクル手法の確立に取り組む。その後は、市場から回収された廃電池のリサイクル材を再利用するための枠組みや、NTO負極セルを市場から回収してリサイクルする循環スキームを確立していく計画である。
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