Inを含まないCIS型太陽電池で光電変換効率12%超:トップセルに適した光吸収層を開発
産業技術総合研究所(産総研)は、インジウム(In)を含まないCIS型薄膜太陽電池で、12%を超える光電変換率を達成した。タンデム型太陽電池のトップセルに適した光吸収層を開発することで実現した。
CuGaSe2光吸収層を製膜中に、傾斜をつけてAlを添加
産業技術総合研究所(産総研)ゼロエミッション国際共同研究センターの石塚尚吾首席研究員は2024年11月、インジウム(In)を含まないCIS型薄膜太陽電池で、12%を超える光電変換率を達成したと発表した。タンデム型太陽電池のトップセルに適した光吸収層を開発することで実現した。
タンデム型太陽電池は、複数の太陽電池を組み合わせ、吸収する光の波長を分担させることで、より高い性能が得られる。しかし、材料として用いられるIII-V族化合物などが高価なため、宇宙用など特殊な用途に限れていた。タンデム型太陽電池を民生用途などにも普及させるためには、コストパフォーマンスに優れた材料開発が必須となっていた。
こうした中、軽量で柔軟性のある太陽電池を作製できるCIS型化合物が注目されている。ところが、短波長の光吸収に特化した禁制帯幅約1.6eV以上のCIS型太陽電池においては、高い光電変換効率を達成するのが極めて難しかった。
産総研は今回、1.7eVの広禁制帯幅を有するCuGaSe2薄膜にアルミニウム(Al)を添加し、裏面電界効果を得ることで性能を向上させた。そして、Inを含まない広禁制帯幅CIS型薄膜太陽電池として、初めて12%を超える光電変換効率を実現した。
実験では、CuGaSe2光吸収層の製膜中に、光吸収層の表面から裏面に向かってAlの含有量が多くなるよう傾斜をつけて添加したという。さらに、アルカリ金属化合物を添加すれば、欠陥形成が抑制できることを発見した。
産総研では今後、広禁制帯幅CIS型薄膜太陽電池のさらなる欠陥低減化や新しい電子輸送層の開発によって、より高効率な太陽電池の実現を目指している。また、裏面電極層を従来の金属電極層から透明電極層に置き換えることも検討している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 産総研、ペロブスカイト太陽電池のセルを自動作製
産業技術総合研究所(産総研)は、「ペロブスカイト太陽電池自動セル作製システム」を開発した。「世界初」(産総研)というこのシステムを活用すれば、材料やプロセスの開発時間を短縮でき、研究開発の効率を大幅に高めることが可能となる。 - サマリウム−鉄−窒素焼結磁石の高性能化に成功
日本特殊陶業と産業技術総合研究所(産総研)は、新たに開発した焼結助剤と磁石合成プロセスを用い、高性能の「サマリウム−鉄−窒素焼結磁石」を作製する技術を開発した。EV(電気自動車)に搭載される高効率モーター用磁石などに適用していく。 - プラズマ加工による半導体素子の劣化を定量評価
産業技術総合研究所(産総研)は名古屋大学低温プラズマ科学研究センターと共同で、プラズマ加工による半導体素子へのダメージ量を、簡便かつ短時間で定量評価することに成功した。 - 性能低下を回避して長寿命を実現 小型酸素センサー
産業技術総合研究所(産総研)は、テクノメディカや東北大学、富士シリシア化学および、筑波大学らと共同で、新規開発の参照極を用い、連続使用が可能な「長寿命小型酸素センサー」を開発した。 - 東北大ら、クロム窒化物で高速な相変化機能を発見
東北大学と慶應義塾大学、漢陽大学校(韓国)、産業技術総合研究所(産総研)らの研究グループは、クロム窒化物(CrN)が高速な相変化によって電気抵抗が大きく変化することを発見した。CrNは環境に優しく動作電力を低減できることから、相変化メモリ(PCRAM)の情報記録材料として期待されている。 - セルロース樹脂を用い半導体型CNTを選択的に抽出
京都工芸繊維大学、奈良先端科学技術大学院大学および、産業技術総合研究所(産総研)は、優れた温度差発電性能を有する「半導体型CNT(カーボンナノチューブ)」の抽出方法を開発した。抽出剤としてはアルキル化セルロースを用いた。