ADEKA、軽量Li-SPAN/樹脂箔パウチセルを開発:軽量で安全性や実用性を兼ね備える
ADEKAとうるたまは、次世代二次電池向け正極材「SPAN」と樹脂箔で構成される正極を用いた二次電池「軽量Li-SPAN/樹脂箔パウチセル」の試作に成功した。軽量で安全性や実用性を兼ね備えた二次電池を実現できるため、ドローンやHAPS、eVTOLなどへの応用が期待される。
重量エネルギー密度は最大552Wh/kg、釘を刺しても発火せず
ADEKAとうるたまは2024年11月、次世代二次電池向け正極材「SPAN」と樹脂箔で構成される正極を用いた二次電池「軽量Li-SPAN/樹脂箔パウチセル」の試作に成功したと発表した。軽量で安全性や実用性を兼ね備えた二次電池を実現できるため、ドローンやHAPS(成層圏通信プラットフォーム)、eVTOL(電動垂直離着陸機)などへの応用が期待される。
ADEKAは、産業技術総合研究所(産総研)や豊田自動織機が開発した製造方法をもとに、硫黄系活物質の1つである「SPAN(硫化ポリアクリロニトリル)」を、「アデカアメランサ SAMシリーズ」という名称で量産化する計画である。さらに、うるたまやソフトバンク、KISCO、産総研などと連携し、次世代二次電池の技術開発と市場開拓にも取り組んでいる。
今回試作した軽量Li-SPAN/樹脂箔パウチセル「LiLiSPRing-model ADETAMA」は、電池容量が9Ahで、大きさは名刺サイズである。正極活物質にはアデカアメランサ SAMシリーズを用いた。SPAN正極の集電体には、KISCOとソフトバンクが共同で開発している樹脂箔を採用した。セルの構成を検討したのはADEKAで、設計はADEKAとうるたまが共同で行った。また、樹脂箔へのタブ溶接はKISCOとソフトバンクが、セル作製はうるたまが、それぞれ担当した。
研究グループは、試作したセルの充放電試験をソフトバンクの次世代電池Lab.で行った。重さが25.2gという試作セルを用い、25℃、0.05Cという条件で放電した時の容量(9.27Ah)と電圧(1.50V)のデータから、重量エネルギー密度は最大552Wh/kgと算出した。鉄くぎを刺す安全性試験でも、発煙や発火が起こらないことを確認した。
ADEKAは現在、相馬工場(福島県相馬市)においてアデカアメランサ SAMシリーズの量産化を進めている。既に年間100kg以上の合成に成功しているが、2026年度にはこれを年間数トン規模まで引き上げていく計画である。
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