モバイルにも実装可能なミリ波帯MIMOフェーズドアレイ受信機IC:6G向けに東工大が開発
東京工業大学の岡田健一教授らは、6G(第6世代移動通信)に向けて、高効率で低消費電力の「ミリ波帯 MIMOフェーズドアレイ受信機IC」を開発した。時分割MIMO技術により回路の規模を削減でき、IoT端末やモバイル端末への実装も可能となる。
大規模MIMO、IoT端末やモバイル端末での利用が可能に
東京工業大学工学院電気電子系の岡田健一教授らによる研究チームは2024年7月、6G(第6世代移動通信)に向けて、高効率で低消費電力の「ミリ波帯 MIMOフェーズドアレイ受信機IC」を開発したと発表した。時分割MIMO技術により回路の規模を削減でき、IoT端末やモバイル端末への実装も可能となる。
次世代移動通信では、さらなる高速通信に向け、より高い周波数の活用や大規模MIMOの利用が検討されている。ただ、ミリ波帯の無線通信で従来のMIMO方式を用いれば、アンテナ数が増えるなどして回路規模が大きくなり、集積化が極めて難しいという課題があった。
研究チームは今回、ビーム方向を極めて高速に切り替えることで、多数のMIMOストリームを同時に受信できる「時分割MIMO技術」を開発し、回路規模が増大する課題を解決した。具体的には、フェーズドアレイ部で高速同期ビーム切り替えを行う。これによって、MIMOストリーム数が増えても、回路規模の増大を抑えられるMIMO受信機ICを新たに開発した。
時分割MIMO動作は、高速切替移相器と同期技術により可能となった。実際に高速切替移相器は、0.15ナノ秒でスイッチングできる。従来に比べ20倍以上も速い。これにより、400MHz帯域の信号周期である2.5ナノ秒の間に、4回のビームパターン切り替えを行い、4ストリームの時分割MIMO動作が可能となった。
時分割MIMOフェーズドアレイ受信機ICは、65nm世代のシリコンCMOSプロセスで作製した。低雑音増幅器や高速切替移相器、利得可変増幅器からなる受信回路が8系統あり、電力合成回路や制御回路も1チップに集積した。
特性を評価する実験では、8個のパッチアンテナを備えたプリント基板に実装し、5G NR規格準拠信号を用いて1mの距離でOTA測定を行った。これにより、4ストリームのMIMO通信が行えることを確認。64QAMで400MHz帯域の4ストリームMIMO通信により、9.6Gビット/秒の伝送速度を達成したという。このICは、1MIMOストリーム当たりのチップ面積が0.1mm2、消費電力は8mWであった。
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