東北大学ら、テラヘルツ光で光ダイオード効果を観測:高速無線通信用デバイスに応用
東北大学と静岡大学、大阪大学および、神戸大学の共同研究グループは、コバルトオケルマナイトにおいて、テラヘルツ光の一方向透過性(光ダイオード効果)を観測した。また、理論計算により一方向透過性と特異な吸収の起源が「自発的マグノン崩壊」であることも明らかにした。
複雑なマグノン/エレクトロマグノン物性を詳細に解明
東北大学と静岡大学、大阪大学および、神戸大学の共同研究グループは2025年2月、コバルトオケルマナイト(Sr2CoSi2O7)において、テラヘルツ光の一方向透過性(光ダイオード効果)を観測したと発表した。また、理論計算により一方向透過性と特異な吸収の起源が「自発的マグノン崩壊」であることも明らかにした。今回の研究成果は、極めて高速な無線通信に用いられるテラヘルツ光の光アイソレーターや光スイッチに応用できるとみている。
マルチフェロイックと呼ばれる物質は、磁性と誘電性が強く相関しており、電気磁気効果による新奇な物性が報告されている。その1つが光の一方向透過性である。電気磁気効果は、「光/電磁波の振動磁場によるスピン波励起(マグノン励起)」に加え、「振動電場によるスピン波励起(エレクトロマグノン励起)」も許容する。
振動磁場と振動電場の両方に応答する励起があると、2つの励起が干渉し方向二色性が現れるという。例えば、左入射では吸収され光が透過しない。ところが、右入射ではほとんど吸収されず光は透過する。こうした方向二色性はさまざまな周波数領域で観測されるが、今回はテラヘルツ光における電場と磁場の干渉機構を解明した。
実験では、マグノン/エレクトロマグノン励起による光吸収を、強磁場/強制強磁性(磁化飽和)の状態で観察した。Sr2CoSi2O7は、低温だと反強磁性磁気秩序であるが、20テスラ以上の強磁場を印加すると磁化飽和状態となる。この状態でマグノン/エレクトロマグノンを観察すれば理論解析が単純となり、電気磁気効果による複雑なマグノン/エレクトロマグノン物性を詳細に解明できるという。
また、自発的マグノン崩壊は非弾性中性子回析実験で観測されていたが、光励起現象で観測されたのは今回が初めてという。電子スピン共鳴においてマグノン崩壊を観測するためには、マグノン励起と2つのマグノンのエネルギー関係が重要だという。今回は、これらのエネルギーが同じであったことや、マグノン励起モードの吸収が十分に強かったことで観測できたとみている。
今回の研究成果は、東北大学金属材料研究所の赤木暢助教や静岡大学理学部の松本正茂教授、大阪大学大学院理学研究科の鳴海康雄准教授と萩原政幸教授および、神戸大学分子フォトサイエンス研究センターの大久保晋准教授と太田仁名誉教授(当時は教授)らによるものである。
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