シリコントランジスタ上で同時に電子と正孔が存在:強く束縛したペア(励起子)を生成
静岡大学と島根大学の研究チームは、ゲート電圧を制御することにより、シリコントランジスタ上で同時に電子と正孔を存在させることに成功した。しかも、電子と正孔の距離は約5nmと極めて接近しており、「強く束縛したペア(励起子)」を生成していることが分かった。
高精度ゲート操作技術を活用し、ゲート電圧を高速にスイッチング
静岡大学電子工学研究所の堀匡寛准教授と小野行徳教授および、島根大学の影島博之教授らによる研究チームは2023年10月、ゲート電圧を制御することにより、シリコントランジスタ上で同時に電子と正孔を存在させることに成功したと発表した。しかも、電子と正孔の距離は約5nmと極めて接近しており、「強く束縛したペア(励起子)」を生成していることが分かった。
一般的なシリコントランジスタは、pチャネル型とnチャネル型があり、ゲート端子に負電圧/正電圧を印加すると、ソース−ドレイン端子間には正孔あるいは電子のどちらか一方しか流せない。
研究チームは今回、独自に確立した高精度ゲート操作技術を活用し、ゲート電圧を高速にスイッチングさせて、電子と正孔をトランジスタ上で同時に存在させた。具体的なゲート操作手順はこうだ。まず、負電圧(セット電圧)を印加してシリコン酸化膜/シリコン界面に正孔を蓄積させる。次に、セット電圧から正方向の電圧(オン電圧)に高速でスイッチングする。これらの操作を低温環境で実行した。
この結果、界面の正孔は熱エネルギーを奪われ動きが鈍くなり、高速で変化するゲート電圧に追従できず界面にとどまる。この正孔に引き付けられるよう、ソース−ドレイン端子から電子が誘導されて、トランジスタ界面近傍で電子正孔共存系が形成されたという。
研究チームは、8Kという低温下で電子正孔共存後の再結合電流を計測し、ゲートのセット電圧/オン電圧との関係性を調べた。これにより、電子と正孔はそれぞれゲートと容量的に結合し、これらの密度はセット電圧/オン電圧によって独立に制御できることが分かった。この容量から見積もった電子−正孔間の距離は約5nmであった。この値は、シリコンの励起子ボーア半径とほぼ一致した。
再結合電流の時間変化についても調べた。これにより、「ランダムで早い再結合」および、「ゆっくりとした再結合」と、2種類の再結合過程があることを確認した。これらは、「電子正孔共存系を形成した直後の高密度なプラズマ状態を経て、低密度の電子−正孔が強く束縛したペア(励起子)を生成するモデルによって説明できる」という。
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