記憶と演算の機能を併せ持つスピン素子を開発:省エネAIチップなどに応用
東北大学らの研究グループは、記憶と演算の機能を併せ持つ「スピントロニクス素子」を開発したと発表した。省エネAIチップなどへの応用が期待される。
強磁性材料とノンコリニア反強磁性材料を積層し「双方向制御」を実現
東北大学らの研究グループは2025年2月、記憶と演算の機能を併せ持つ「スピントロニクス素子」を開発したと発表した。省エネAIチップなどへの応用が期待される。
スピントロニクス分野では、磁性体の磁気構造を電気的に制御するための研究が行われている。ここで注目されている磁性材料が「ノンコリニア反強磁性体」である。磁気スピンホール効果により、近接する磁性層を制御するための駆動力を提供できる。さらに、ノンコリニア反強磁性体にスピン流を注入すると、その磁気構造を駆動することも可能となる。
研究グループは今回、強磁性材料の「コバルト鉄ホウ素(CoFeB)」と、ノンコリニア反強磁性材料であるマンガンとスズの化合物「Mn3Sn」を積層した。これにより、ある電流領域では駆動力を供給する「出し手」となり、別の電流領域では制御される「受け手」となる、「双方向制御」という特性を持った素子の開発に成功した。
この特性を利用すれば、強磁性材料でノンコリニア反強磁性材料を制御して「情報を記憶」し、ノンコリニア反強磁性材料で強磁性材料を制御すれば「演算処理」を行うことができるという。
さらに今回は、Mn3Snの状態によって、CoFeB内に書き込める情報量が変えられることを明らかにした。開発した技術は、ニューラルネットワークにおける基本動作の1つである積和演算に応用できるとみている。具体的には、シナプス荷重値(アナログ値)をMn3Snに記憶させておき、前段ニューロンからの入力信号と、記憶しているシナプス荷重値の積に応じてCoFeBの磁化を反転させれば、積和演算の結果が得られるという。
今回の研究成果は、東北大学電気通信研究所のユン・ジュヨン博士研究員と深見俊輔教授、同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)のハン・ジャーハオ准教授、物質・材料研究機構の竹内祐太朗研究員および、日本原子力研究開発機構の家田淳一研究主幹らによるものである。
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