層厚を制御した多層構造の人工強磁性細線を作製:大容量メモリや磁気センサーに応用
岐阜大学と名古屋大学、早稲田大学、京都大学の研究グループが、層膜を制御した多層構造の「人工強磁性細線」の作製に成功した。人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサーの開発などに期待する。
人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比が増大
岐阜大学と名古屋大学、早稲田大学、京都大学の研究グループは2025年3月、層膜を制御した多層構造の「人工強磁性細線」の作製に成功したと発表した。人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサーの開発などを期待する。
次世代磁気メモリとして提案されている三次元磁壁移動型磁気メモリは、記録層と磁壁層が交互に積層された多層構造の人工強磁性細線を配置していて、細線1本で数ビットの記憶容量を持つ。記録層では垂直方向の磁化の向きにより、データが「0」か「1」かを区別する。
細線に電流を印加することで記録層のデータを動かし、読み出し用のMTJ(強磁性トンネル接合素子)でデータを読み取ることが可能。記録層と磁壁層に用いる材料は、「コバルト−プラチナ(Co-Pt)合金」が適しているといわれている。しかし、メモリ素子となる人工強磁性細線を作製することが課題の1つとなっていた。
研究グループは今回、電析(電気メッキ)法と細孔ナノテンプレートを用いた手法によって人工強磁性細線を作製した。具体的には、ポリカーボネートの細孔ナノテンプレートを作用電極として加工し、コバルトとプラチナの濃度比が異なる2種類の電解質溶液を相互に電析する「二浴電析法」を用いた。作製した人工強磁性細線を電子線回析で観察したところ、Co71Pt29合金とCo13Pt87合金の層がきれいに積層されていることを確認できた。
細線の直径は約130nmで、Co71Pt29合金とCo13Pt87合金における1層の膜厚は平均11nmであった。また、細線の長さは最長で約19μm、細線の積層数は最大で約1300層となった。
実験では、Co71Pt29合金とCo13Pt87合金における1層の平均膜厚を人工的に制御して、層厚が数百nmから最小約3.5nmの試料をいくつか作製した。そして、電極を付けたそれぞれの細線に電流と磁場を印加し、異方性磁気抵抗(AMR)を測定した。この結果、人工強磁性細線の層厚が薄くなるほど、磁気抵抗比は増大することが分かった。
今回の研究成果は、岐阜大学大学院自然科学技術研究科の川名梨央氏(修士課程1年)、大口奈都子氏(令和5年度修士課程修了生)、同工学部の山田啓介准教授、吉田道之助教、杉浦隆教授、嶋睦宏教授、名古屋大学大学院工学研究科の大島大輝助教、同未来材料・システム研究所の加藤剛志教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構の齋藤美紀子招聘(しょうへい)研究員、同先進理工学部の本間敬之教授、京都大学化学研究所の小野輝男教授らによるものである。
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