テラヘルツ帯の無線通信で長距離、大容量伝送に成功:早稲田大学とJAXAが実証
早稲田大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、テラヘルツ領域に対応する無線通信システムを試作、4.4kmの通信距離に対し伝送速度4Gビット/秒という大容量伝送に成功した。
今後は伝送距離20kmで伝送速度20Gビット/秒を目指す
早稲田大学理工学術院の川西哲也教授らと宇宙航空研究開発機構(JAXA)研究開発部門センサー研究グループは2025年3月、テラヘルツ領域に対応する無線通信システムを試作、4.4kmの通信距離に対し伝送速度4Gビット/秒という大容量伝送に成功したと発表した。
次世代移動通信システムでは、さらなる大容量通信を実現するため、テラヘルツという周波数帯の利用が計画されている。そこで研究グループは、高度が約20km以下の高高度プラットフォームシステム(HAPS)や航空機に対するフィーダーリンクにおいて、高周波数帯を利用し伝送速度を向上させる技術の開発に取り組んできた。
今回の実験では、92G〜104GHzに対応するアンテナや送信機および、受信機を試作した。アンテナサブシステムとしては、飛行体に搭載可能な直径0.3mのカセグレンアンテナと、地上局に向けた直径1.2mのカセグレンアンテナを開発。実験ではこれらを最大出力1Wの送信機と組み合わせた。
伝送実験は、周波数帯を95.375G〜96.625GHz(中心周波数96GHz)に限定、送信機の空中線電力は15mWに設定して行った。具体的には、東京・小金井市にある6階建てビルの屋上から、東京・西東京市にあるスカイタワー西東京まで4.4km離れた場所で実施。帯域幅は1.25GHz、シンボルレートは1Gシンボル/秒という条件で、変調方式QPSK(伝送速度2Gビット/秒)および、160QAM(4Gビット/秒)を用いて伝送を確認した。
研究グループは今後、空中線電力が1Wの送信機などを試作し、伝送距離が20kmで伝送速度が20Gビット/秒の通信機能を目指す。さらに、飛行体に対するアンテナ追尾技術の改良なども行う計画である。
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