非圧縮8K映像システム向けの伝送ユニットを開発、NICTら:マルチコアファイバーケーブル採用
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所とアストロデザイン、フジクラは、新たに開発したマルチコアファイバーケーブルを用いた伝送ユニットを、非圧縮8K映像システムに実装し、安定したシステム動作を実現した。
直径3mmのケーブルで、光ファイバー32本分の情報を伝送
情報通信研究機構(NICT)未来ICT研究所とアストロデザイン、フジクラは2025年3月、新たに開発したマルチコアファイバーケーブルを用いた伝送ユニットを、非圧縮8K映像システムに実装し、安定したシステム動作を実現したと発表した。クリーンルーム内に複数の8Kカメラを設置し、撮影した大容量データを限られたケーブル本数で離れた場所に伝送できることを実証した。
非圧縮8K映像システムでは、1映像当たり約70Gビット/秒のデータ伝送が必要となる。このため、非圧縮8Kカメラで撮影した映像を合成装置などに伝送するには、1台ごとに単芯のシングルモードファイバー1本を用いることになる。
新たに開発したマルチコアファイバーケーブルは、外径3mmのケーブル内に4コア標準外径マルチコアファイバーを合計8本実装している。これを用いると、ガラス外径が同じシングルモードファイバーの32本分に相当する情報量を伝送できるという。今回は、試験を目的としているため信号干渉特性が異なる2種類のマルチコアファイバーを実装した。
伝送ユニットは、「マルチコアファイバーケーブル」および、このケーブルと単芯光ファイバー4本を非接触で接続するための「多重分離器」で構成される。オプトクエストが開発した多重分離器を用いると、結合誤差が極めて小さいため低損失で信頼性も高いという。
NICTはこれまで、クリーンルーム内に8K映像システムの導入を進めてきた。特に非圧縮8K映像は、極めて解像度が高い映像をリアルタイムで得られ、遠隔地からでも製造ラインの監視や状態の把握が可能となる。ただ、設置するカメラの台数を増やすと、映像を伝送する光ファイバーの本数も増えるのが課題であった。現場によっては新たな配線スペースを確保するのが難しく、新たに8K映像システムを追加導入できないケースもあるという。
今回クリーンルームに実装した8K映像システムは、非圧縮8Kカメラや圧縮8Kカメラ、マルチコアファイバー伝送ユニット、8K映像合成装置、8K映像制御装置および、8Kモニターなどで構成。なお、8K映像合成装置は8Kカメラから300m離れた別の建屋に設置した。
具体的には、非圧縮8Kカメラと8K映像合成装置を、マルチコアファイバー伝送ユニットにより双方向接続した。撮影した非圧縮8KのRAWデータやLAN信号などは、12波長のCWDM信号としてアップリンク6波長、ダウンリンク6波長に割り当て、双方向合計69.3Gビットの光信号として、シングルモードファイバー1コアを使って双方向多重伝送する。その後、非圧縮8K映像は8K映像合成装置内で他の8K映像と合成し、8K映像制御装置を介して8kモニターに表示する仕組み。
圧縮8Kカメラは今回、32台を設置した。3セットの「SFP-10GLR-31モジュール」と、6本のシングルモードファイバーを用いて、8K映像合成装置と接続した。32台の中で9台は画像合成装置を経由し、8Kモニター上に複数映像を同時に表示させる。残り23台のカメラ映像については、作業者がVRグラスをかけて、クリーンルーム内をリアルタイムで歩いているような体験ができるという。
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