半導体デバイスの発熱を制御するメカニズムを発見:デバイスの性能向上と省エネを実現
東北大学と北海道大学、高輝度光科学研究センターの共同研究チームは、絶縁膜において熱の流れを自在に制御できるメカニズムを発見した。しかも、基板の種類によって膜の構造や振動特性が変化し、熱伝導が大きく変化することを確認した。
「ハローピーク」が熱伝導率と密接に関係
東北大学大学院工学研究科の小野円佳教授らと、北海道大学電子科学研究所、同大学院工学研究院、高輝度光科学研究センターによる共同研究チームは2025年4月、絶縁膜において熱の流れを自在に制御できるメカニズムを発見したと発表した。しかも、基板の種類によって膜の構造や振動特性が変化し、熱伝導が大きく変化することを確認した。
電子機器の性能を高めるには、搭載する半導体デバイスの発熱を適切に制御することが、極めて重要となる。ところが、発生した熱を予定した方向へ逃がすことは、これまで難しかったという。
今回、絶縁層に用いたアモルファスシリカ(SiO2)薄膜は、極めて高い絶縁性と耐圧性を有する材料である。その上、比較的熱を通しやすいという特性も併せ持つ。そこで、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)、ガリウムヒ素(GaAs)の各基板上に厚みが異なるSiO2薄膜を作製し、熱の伝わりやすさ(熱伝導率)を調べた。さらに、大型放射光施設「Spring-8」のBL 13XUを用いて、SiO2薄膜の構造も観察した。
この結果、シリカガラス特有の構造である「ハローピーク」が、熱伝導率と密接に関連していることが分かった。特に、シリカの基本構造である「リング」が小さい場合、熱は伝わりにくくなる。基板を構成する原子とシリカ中のSiやO原子との結びつきが強い場合は、リングサイズが同じでも熱伝導率は低下することが分かった。例えば、シリコン基板上に形成したSiO2薄膜は、バルクに比べ熱伝導率は約3分の1まで低下した。
これらのデータから、シリカのリング構造が大きいほど、熱を運ぶ振動が起きやすい。逆に、リングが小さく基板と強く結びついた場合には振動が抑えられ、熱伝導は妨げられることが明らかとなった。この機構は、シリカガラス一般に共通する可能性があるとみている。
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