Siナノ粒子をグラファイトに添加、蓄電デバイスが高性能に:最高エネルギー密度は129.3Wh/kg
秋田大学は、リチウムイオンキャパシター用の「三元複合負極材」を開発した。この負極材を用いて試作したリチウムイオンキャパシターは、129.3Wh/kgという最高エネルギー密度を達成した。
グラファイトとハードカーボン、ナノSiの質量比「2対6対2」
秋田大学大学院理工学研究科のチェン チェンジェ博士研究員と熊谷誠治教授らの研究グループは2025年4月、リチウムイオンキャパシター用の「三元複合負極材」を開発したと発表した。この負極材を用いて試作したリチウムイオンキャパシターは、129.3Wh/kgという最高エネルギー密度を達成した。
リチウムイオンキャパシターは、負極材に炭素系材料を、正極材に活性炭をそれぞれ用いた蓄電デバイス。「エネルギー密度」「入出力密度」「サイクル寿命」のバランスに優れている。ただ、従来の負極材は比容量が低いため、リチウムイオン電池に比べるとエネルギー密度は低かった。
研究グループはこれまで、グラファイトとハードカーボンの質量比が1対3の複合負極材を開発し、エネルギー密度とサイクル寿命を改善してきた。さらに、エネルギー密度をさらに向上させるため、室温で約3600mAh/gという極めて高い比容量を持つシリコン(Si)に着目した。そして、膨張収縮の影響を最小化するために、ナノ粒子化したSiをグラファイトに添加した。この複合負極材を用いて作製したリチウムイオンキャパシターは、87.3Wh/kgというエネルギー密度を実現。1万サイクルの充放電後でも初期エネルギー密度の87.2%を維持できた。
今回は、エネルギー密度のさらなる向上を目指し、複合負極材を改良した。そして、グラファイトとナノSiの複合材にハードカーボンを添加した三元複合負極材を開発した。グラファイトとハードカーボン、ナノSiの質量比は「2対6対2」である。
ハードカーボン中の無定形炭素領域が、リチウムイオンの吸蔵放出によるSi粒子の膨張収縮を緩和し、サイクル安定性を向上させた。しかもグラファイトが存在することで負極中の電気伝導率が増え、入出力密度が増加した。
こうした効果により、三元複合負極材を用いたリチウムイオンキャパシターの最高エネルギー密度は129.3Wh/kgとなった。セル電圧2.0〜4.0Vの充放電試験では、1万サイクル後においてエネルギー密度は88.4%を維持した。セル電圧1.5〜4.2Vで5000サイクルの充放電試験後でも、90.1%のエネルギー密度が維持されていることを確認した。
研究グループは今後、比較的安価に調達できるサブミクロンやミクロンサイズのSi粒子を適用する技術の開発や、充放電特性のさらなる改善に取り組んでいく。
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