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TSMCは誰のもの? 米国やAI偏重で懸念される「1本足打法」湯之上隆のナノフォーカス(81)(5/5 ページ)

TSMCの2025年第1四半期(1〜3月期)は好調で、同四半期としては過去最高を更新した。だがTSMCの売り上げを分析してみると、そこには明らかな「異変」があることが分かる。

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TSMCの好業績に潜む危うさ:AI偏重の“1本足打法”が招く未来

 本稿を総括する。TSMCは2025年Q1において、第1四半期としては過去最高となる売上高および営業利益を記録した。しかし、その内訳を詳細に分析すると、表面的な好業績の裏に、必ずしも「絶好調」とは言えない側面がいくつも見えてくる。具体的には、以下の点が挙げられる。

1)売上高こそ過去最高水準に達したが、ウエハー出荷枚数はピーク時の82%にとどまっており、出荷量という実態は低迷している

2)テクノロジーノード別の売り上げでは、好調なのは最先端の5nmおよび3nmに限られ、7nmはピーク時の約半分に落ち込み、16nm、28nm、40nmなどの成熟ノードは軒並み低水準にとどまっている

3)地域別売上高(比率)を見ると、米国向けが突出している一方で、アジア、中国、日本、欧州向けは全て10%以下と低迷し、ドングリーズ状態となっている

4)プラットフォーム別売上高(比率)では、NVIDIAのGPUなどAI半導体を含むHPC向けが急成長する一方、スマートフォン向けは飽和状態にあり、クルマ、IoT、コンシューマー向けは依然として低迷している

 総じて言えば、TSMCの現在の業績は、NVIDIAのGPUをはじめとするAI半導体への依存によって支えられており、その実態は「5nmおよび3nm」「米国向け」「HPC向け」という3点に過度に依存した“1本足打法”の状態にある。仮に今後、NVIDIAのGPU価格が暴落すれば、TSMCの業績は一気に崩れ去るリスクがある。

 従って、現状のTSMCの業績は、表面的には絶好調に見えるものの、構造的には非常に脆弱であり、「健全」とは言い難いのではないだろうか。


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筆者プロフィール

湯之上隆(ゆのがみ たかし)微細加工研究所 所長

1961年生まれ。静岡県出身。京都大学大学院(原子核工学専攻)を修了後、日立製作所入社。以降16年にわたり、中央研究所、半導体事業部、エルピーダメモリ(出向)、半導体先端テクノロジーズ(出向)にて半導体の微細加工技術開発に従事。2000年に京都大学より工学博士取得。現在、微細加工研究所の所長として、半導体・電機産業関係企業のコンサルタントおよびジャーナリストの仕事に従事。著書に『日本「半導体」敗戦』(光文社)、『「電機・半導体」大崩壊の教訓』(日本文芸社)、『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』(文春新書)。2023年4月には『半導体有事』(文春新書)を上梓。


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