強磁場で超伝導ダイオード効果を示す素子を開発:ボルテックスのピン止め効果が起源
大阪大学と東北大学の共同研究グループは、鉄系超伝導体であるセレン化・テルル化鉄「Fe(Se,Te)」を用いた薄膜素子を作製し、1〜15テスラという強い磁場中で、「超伝導ダイオード効果」を観測した。
ダイオード効率と2次高調波抵抗の間でスケーリング則が成立
大阪大学大学院理学研究科の小林友祐氏(当時博士前期課程2年)や塩貝純一准教授、松野丈夫教授、東北大学金属材料研究所の野島勉准教授らによる共同研究グループは2025年5月、鉄系超伝導体であるセレン化・テルル化鉄「Fe(Se,Te)」を用いた薄膜素子を作製し、1〜15テスラという強い磁場中で、「超伝導ダイオード効果」を観測したと発表した。
Fe(Se,Te)は、母物質のFeSeに比べ「高い超伝導臨界パラメーター」や「強いスピン軌道相互作用」を示すことが分かっていた。しかし、電流を流す方向によって、「超伝導状態」と「常伝導状態」の切り替えが可能となる「超伝導ダイオード効果」に関しては、これまで詳細な報告はなされていなかったという。
研究グループは今回、Fe(Se,Te)を用いて作製した薄膜素子を用い、広い温度や磁場範囲において臨界電流を調べた。そして、1〜15テスラという強い磁場環境で、「超伝導ダイオード効果」を測定することに成功した。
これとは別の実験を行い、スピン軌道相互作用の指標となる2次高調波抵抗についても、磁場・温度依存性を評価した。この値を超伝導ダイオード効果の結果と比べたところ、ダイオード効率と2次高調波抵抗の間で、磁場や温度によらないスケーリング則が成り立つことが分かった。この超伝導ダイオード効果の起源が、スピン軌道相互作用によって非対称化されたボルテックス(超伝導量子化渦)のピン止め効果によることを突き止めた。
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