CO2とシリコン廃棄物がSiCに「生まれ変わる」 合成技術開発へ:東北大学と住友商事
東北大学の研究チームと住友商事は、CO2とシリコン廃棄物を有効活用して再資源化する「カーボンリサイクル型SiC(炭化ケイ素)合成技術」の共同開発を始めた。研究期間は2028年3月までの約3年間で、「CO2削減」「産業廃棄物の有効利用」「低コスト化」の同時達成を目標とする。
目標はCO2削減、産業廃棄物の有効利用、低コスト化の同時達成
東北大学大学院工学研究科応用科学専攻の福島潤助教の研究チームと住友商事は2025年5月、CO2とシリコン廃棄物を有効活用して再資源化する「カーボンリサイクル型SiC(炭化ケイ素)合成技術」の共同開発を始めたと発表した。研究期間は2028年3月までの約3年間で、「CO2削減」「産業廃棄物の有効利用」「低コスト化」の同時達成を目標とする。
SiCは次世代パワー半導体材料として注目されている。特に、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー機器において、効率をさらに高めることができる素材として期待されている。ところが、従来のSiC製造プロセスには高温加熱が必要で、大量のエネルギー消費やCO2の排出が課題となっていた。
そこで東北大学と住友商事は、カーボンリサイクル型SiC合成技術を開発することにした。このプロジェクトは、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が取り組む「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2有効利用拠点における技術開発/研究拠点におけるCO2有効利用技術開発・実証事業」(基礎研究エリア)で委託事業に選ばれた。
開発プロジェクトでは、東北大学がカーボンリサイクルに関する技術や特許、学術的知見を活用し、反応条件の最適化や高純度化プロセスを検証する。住友商事は、原料となるシリコンスラッジやCO2を安定して調達できるルートの調査、国内外における市場開発・販路構築などを担当する。実証実験はNEDOが中国電力大崎発電所内に整備した「カーボンリサイクル実証研究拠点」で行う予定。
開発成果は、環境負荷の少ない「新たな材料製造モデル」を示すことになる。「高純度化手法」や「スケールアップ技術」といった研究成果は、カーボンリサイクル型SiC粉末の品質やコスト競争力、環境貢献度の向上に寄与するとみている。
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