AMDがAI新興Untether AIのエンジニアチーム「だけ」買収:技術/製品は買収せず
AMDは2025年6月、カナダのトロントに拠点を置くAIチップのスタートアップ企業であるUntether AIのエンジニアリングチームを買収した。技術は買収していないので、Untether AIのプロセッサ「SpeedAI」およびソフトウェア開発キット(SDK)「ImAIgine」は今後供給もサポートもされないという。
AMDは2025年6月、カナダのトロントに拠点を置くAIチップのスタートアップ企業であるUntether AIのエンジニアリングチームを買収した。これに伴いUntether AIは事業を終了した。
Untether AIの広報担当者は声明の中で「これでUntether AIの旅路は終わるが、最先端のAIチップ技術の進歩を支える先駆的な研究を誇りに思っている。チームの献身と、顧客、パートナー、投資家の支援に感謝している。世界クラスの当社のチームがAMDと共に貢献することを期待している」と述べている。
製品の供給/サポートは終了
業界がクラウドベースの大規模言語モデル(LLM)推論に移行し、AIチップスタートアップの再編が進む中で、今回のニュースは発表された。別のデータセンター向けRISC-V推論チップ企業もレイオフを実施したという。また、オンプレミスのトレーニングチップおよびシステム企業である米国のSambaNova Systemsは、クラウド推論に焦点を定め直し、2025年4月に従業員の15%を解雇した。顧客はまずクラウドサービスから試す傾向が強いので、AIインフラのエンタープライズ市場およびオンプレミス市場は依然として盛り上がりに欠ける状況にある。
Untether AIは、データセンターAI向けの第2世代アクセラレーターとして、メニーコア/ニアメモリのRISC-V設計を開発した。同社は2024年、特に電力効率に関して、MLPerfベンチマークでNVIDIA製品を上回る成果を上げていた。米EE Timesが把握している情報によると、AMDはUntether AIの技術は買収していないので、Untether AIのプロセッサ「SpeedAI」およびソフトウェア開発キット(SDK)「ImAIgine」は今後供給もサポートもされないという。
AMDは声明の中で「Untether AIからAIハードウェアおよびソフトウェアエンジニアの有能なチームを買収する戦略的契約を締結した。この取引によって、世界クラスのエンジニアチームがAMDに加わって、当社のAIコンパイラとカーネル開発能力の向上、デジタルおよびSystem on Chip(SoC)設計、設計検証、製品統合能力の強化に注力することになる。同チーム独自の専門知識をAMDに取り入れられることをうれしく思う」と述べている。
Untether AIは、2024年初頭にIntelのベテラン技術者であるChris Walker氏をCEOに任命した。当時、Walker氏はEE Timesに対し、「Untether AIは『転換期』にあり、特に次世代ハードウェアをチップレットベースの設計に移行する戦略において、自分の使命はパートナーシップと成長を模索することだ」と語っていた。Walker氏は当時、同社はすでにSpeedAIの試作注文を受けていると述べていた。
同社は、データセンターとエッジの両方において、生成AI、スマートシティー、産業ユースケースをターゲットとし、さらに先進運転支援システム(ADAS)を含む自律モビリティ分野もターゲットとしていた。その後、Armとの提携を発表し、Untether AIのアクセラレーターをArm Automotive Enhanced(AE)テクノロジーと連携させた。General Motors(GM)は戦略的投資家として、将来の自動車向け部品ラインの基盤構築を目指した共同開発プロジェクトに取り組んでいる。
SpeedAIは、ピーク消費電力66Wで2PFLOPSのFP8性能を実現するデータセンターアクセラレーターで、1400個のカスタムRISC-Vコアが搭載されていた。Untether AIのロードマップには、エッジシステムとエンドポイントシステム向けに、同じアーキテクチャに基づくチップレットが含まれていた。同社のSDKであるImAIgineは、AIアクセラレータのベアメタルプログラミングを可能にした最初のSDKだった。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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