Broadcomのスペイン投資中止が示す「国家的支援の限界」:欧州全域で半導体強化に乗り出すも(4/4 ページ)
Broadcomは、スペインで10億米ドル規模のATP(組み立て・テスト・パッケージング)施設の建設を計画していたが、同計画を中止した。この破綻は、欧州における南北の分断と、財政的インセンティブの限界を示唆する。
米国の「自国回帰」が欧州への投資に与える影響
スペインでのBroadcomの取引の破綻は、外部の地政学的要因、特に米国の貿易政策が欧州の産業プロジェクトをいかに狂わせるかを如実に示している。
これは、より保護主義的な「アメリカファースト」の姿勢への移行と新たな関税制度の見通しが、Broadcomの企業リスク評価に直接影響を与え、スペインでの新たな海外コミットメントを戦略的にも財政的にも維持不可能にしたことを示唆している。
こうした状況は、2022年の米国の「CHIPS and Science Act(CHIPS法)」によってさらに複雑化している。同法は527億米ドルの連邦資金を直接割り当て、国内の半導体施設を奨励するための非常に魅力的な「先進製造投資税額控除(AMIC)」を提供している。
この積極的な政策は、既に米国内で5000憶米ドルを超える民間投資を集め、欧州半導体法を世界の資本と人材をめぐる直接的な競争の渦中に置いている。
IntelやBroadcomのような米国を拠点とする企業にとって、「製造施設を国内に建設する」ことに対する金銭的インセンティブは非常に大きく、投資の焦点と設備投資を体系的に米国に戻すけん引力となっている。
このダイナミクスによって、国内プロジェクトのコストとリスクが同時に下がる一方で、海外における大規模投資のリスクと複雑さの認識が高まっている。Broadcomとスペインの取引の破綻は、それを示す一例になっているのだろう。
投資の全体的なパターンは、欧州における明確な南北格差を浮き彫りにしている。大規模なプロジェクトは、成熟した産業エコシステム、豊富な人材プール、広範なサプライヤーネットワークなど理由に、ドイツやアイルランドといった欧州北部の確立された産業ハブに集中している。
一方で南欧は、バルセロナのR&Dやビーゴのフォトニクスなど、特定の既存の卓越したセンターを活用する、より小規模でターゲットを絞ったプロジェクトを誘致している。
今回のプロジェクトの破綻は、補助金主導の産業政策の限界を如実に示している。欧州最大級の国家補助金基金を有するにもかかわらず、TSMCやIntelの工場や、Broadcomの施設を誘致できなかったことは「財政的なインセンティブだけでは、地域の製造業エコシステムの根本的な弱点を克服するには不十分」であり、地政学的および企業にとっての強力な逆風に対抗するには不十分であることを示している。
補助金の効果は、全く新しい産業能力をゼロから生み出そうとするのではなく、既存の強みを強化する場合に最も高まるようだ。これは南欧諸国にとって「エコシステムのわな」を生み出す。大規模なファブを誘致するには既存のエコシステムが必要だが、そのエコシステムを構築するには大規模なファブが必要になるのだ。
これは、政策目標とメカニズム(既存企業に有利なFOAK基準)の根本的な不一致と相まって、南北間の投資格差を半永久的に生み出している。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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