パワエレ回路設計の転換点 無線電力伝送システムをAIで自動設計:3年以内の実用化目指す
千葉大学と東京理科大学、崇城大学の研究チームは、機械学習(ML)と数値最適化により、負荷変動に依存せず安定した出力電圧と高効率動作を可能にする「高周波無線電力伝送システム」を全自動で設計できる新たな手法を開発した。負荷非依存(LI)動作を実現するための新たな回路構成も発見した。3年以内の実用化を目指す。
負荷非依存(LI)動作を実現するための新たな回路構成も発見
千葉大学と東京理科大学、崇城大学の研究チームは2025年8月、機械学習(ML)と数値最適化により、負荷変動に依存せず安定した出力電圧と高効率動作を可能にする「高周波無線電力伝送システム」を全自動で設計できる新たな手法を開発したと発表した。負荷非依存(LI)動作を実現するための新たな回路構成も発見した。3年以内の実用化を目指す。
無線電力伝送(WPT)システムは、ケーブルレスで電力供給が行える。このため、スマートフォンやロボット、電気自動車、医療機器などの分野で実用化が進められている。特に、6.78MHzや13.56MHzといったISMバンドを利用する高周波WPTシステムは、送受電コイルを小型化できるため、IoT機器や産業ロボットなどで注目されている。
ところが、負荷変動によって出力電圧が不安定になったり、電力伝送効率が低下したりするなど、課題もあった。これらを解決する手法としてLI動作が注目されている。ところが従来の高度な理論解析ベースの設計手法は極めて難しく、限られた設計者しか対応できなかったという。
研究チームは今回、回路全体の動きを微分方程式でモデル化してシミュレーションすることで、電圧や電流の動作波形を正確に計算・予測できる「全数値的設計手法」を新たに提案した。これにより、「一定の出力電圧」や「電力伝送効率」「高調波ひずみ(THD)」といった性能を、コンピュータ上で同時に最適化できるという。
開発した新たな手法で設計されたClass-EF型WPTシステムの特性を評価した。この結果、出力電圧変動は7.8%で、従来に比べ約60%抑制した。電力伝送効率は出力電力23.1W、伝送周波数6.78MHzにおいて、最大86.7%を達成した。高調波ひずみは0.05以下に抑えることができたという。
設計に用いた回路の構造や部品のモデルは、スイッチング損失やコイル内で発生するコア損失なども考慮するなど、正確に再現した。このため熟練の設計者に頼ることなく、負荷非依存型WPTシステムの設計を、MLによって自動化することが可能となった。研究チームは今回の成果を、「パワーエレクトロニクス回路設計におけるパラダイム転換」とみている。
今回の研究成果は、千葉大学大学院情報学研究院の関屋大雄教授、東京理科大学工学部電気工学科の朱聞起助教、崇城大学情報学部情報学科の小西晃央助教らによるものである。
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