対中輸出規制のほころび、CadenceがEDAツールを違法販売:5年で50件超の違反(2/2 ページ)
Cadence Design Systemsが、米国の対中輸出規制に違反していたことを認めた。同社は総額1億4000万米ドルを超える罰金を科された。
軍事大学への違法な輸出
EDAソフトウェアは、グローバル技術サプライチェーンにおける基本的な「地政学的チョークポイント」で、単なる商用製品ではなく重要な基盤技術である。EDAツールがなければ、数十億個のトランジスタを搭載した現代の半導体は、その計り知れない複雑さゆえに、設計が不可能になるだろう。
Cadenceの事案の中心的なエンドユーザーは、中国中央軍事委員会傘下の主要な軍事学術機関である国防科学技術大学(NUDT:National University of Defense Technology)である。
米商務省は、NUDTが米国製の部品を使用して、核爆発シミュレーションや軍事シミュレーション活動を支援しているとされる「TianHe(天河)」システムなどのスーパーコンピュータを製造しているという米国政府の判断を受けて、2015年2月にNUDTをエンティティリストに追加した。
Cadenceはこの制限を明確に認識しており、NUDTがリストに追加されたまさにその日に、同社の輸出管理担当者が「販売を行う場合、輸出許可証が必要になる」と明記した電子メールを従業員に送っている。
司法省広報局のプレスリリースによると、この明確な内部指示にもかかわらず、Cadenceと同社が中国で間接所有・完全管理する子会社で上海に拠点を置くCadence Design Systems Management(Cadence China)は2015年2月から2021年4月まで、継続的に犯罪共謀に関与していたという。
CadenceとCadence Chinaは、NUDTに直接販売する代わりに、Central South CAD Center(CSCC)という事業体を通じてEDAツールを横流ししていたが、裁判所の文書とCadenceの自白により、CSCCがNUDTの別名にすぎないことが確認された。
BISのプレスリリースには「Cadenceは、NUDTがエンドユーザーであることを知っていた、もしくはそうであると判断する根拠があったにもかかわらず、CSCCに4530万5317.41米ドル相当のEDAハードウェアとソフトウェア、半導体設計技術を輸出した」と記されている。
この期間中、同社は産業安全保障局から必要なライセンスを取得せずに、米国製のEDAハードウェアとソフトウェア、半導体設計のIP(Intellectual Property)をNUDTに違法に提供していた。
NUDTへのEDAソフトウェアの違法輸出は、重要な基盤技術の直接提供に相当する。米国は、こうした半導体設計の「見取り図」的なツールへのアクセスを制御することで、敵対国が次世代の重要技術を独自に設計および革新する能力を抑制することを目指している。これは、現代の地政学的競争における強力な手段となっている。
この違反は重大で、2015年9月から2020年9月までの間に、少なくとも56件の輸出管理規則(EAR)の明確な違反が記録されており、総額4500万米ドルを超えるEDA製品および技術が違法に輸出された。この不正行為は、CadenceがNUDTへの供給に使用していた主要なフロントカンパニーとの関係を最終的に解消した2020年9月に終結を迎えた。
【翻訳:滝本麻貴、編集:EE Times Japan】
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