SiC MOSデバイスの性能を向上し信頼性も大幅改善、大阪大:希釈水素熱処理を2段階で実施
大阪大学の研究グループは、「高温での希釈水素熱処理」を2段階で行う独自の手法を用い、炭化ケイ素(SiC)MOSデバイスの性能を向上しつつ信頼性の大幅改善に成功した。
チャネル移動度は5倍以上に向上、フラットバンド電圧変動も大幅改善
大阪大学大学院工学研究科の小林拓真准教授らによる研究グループは2025年8月、「高温での希釈水素熱処理」を2段階で行う独自の手法を用い、炭化ケイ素(SiC)MOSデバイスの性能を向上しつつ信頼性の大幅改善に成功したと発表した。
SiCパワーデバイスは、高効率で低損失、高耐圧、高温耐性などさまざまな特長を備えていて、電気自動車(EV)や鉄道、産業機器などの分野で導入が進んでいる。SiCパワーデバイスのさらなる特性改善に向けてはこれまで、窒素などの異種不純物を導入するのが一般的だった。ところが、酸化膜中へ不純物が導入されると、デバイスの信頼性が劣化するという課題もあった。
研究グループは今回、高温での希釈水素熱処理を行った。これによって窒素やボロンなど異種不純物を用いなくても、SiC MOSデバイスの特性と信頼性を改善することに成功した。具体的には、1200℃以上という高温での希釈水素熱処理を、絶縁膜堆積の前後に2回行う独自手法(2段階水素熱処理)によって、移動度と信頼性を大幅に向上できたという。
2段階水素熱処理の手法を用いてSiC MOSデバイスを試作し、チャネル移動度を測定した。通常の酸化処理(不純物なし)による絶縁膜形成プロセスでは、移動度が2〜3cm2V-1s-1だった。これに対し今回開発した手法を用いると移動度が17.2 cm2V-1s-1となり、5倍以上に向上した。
ゲートにストレス電圧を加えた時に生じるSiC MOSデバイスのフラットバンド電圧変動も測定。新たな手法を用いたSiC MOSデバイスは正/負電圧耐性のいずれにおいても、窒素を導入したSiC MOSデバイスに比べ、その変動が大幅に改善されていることを確認した。
今回の研究成果は小林准教授の他、藤本博貴氏(博士後期課程)、神畠真治氏(当時は博士前期課程)、八軒慶慈氏(博士前期課程)、原征大助教、渡部平司教授らによるものだ。
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