「120度回転すると元に戻る」材料 次世代デバイスへの応用に期待:三回対称性の超分子集合体を開発
東北大学や信州大学らの研究グループは、溶媒条件で2種類の異なる構造を選択的に作り出すことができる、三回対称性の超分子集合体を開発した。センサーやメモリ素子、環境調和型デバイスなどへの応用が期待される。
ヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレンに着目
東北大学や信州大学らの研究グループは2025年5月、溶媒条件で2種類の異なる構造を選択的に作り出すことができる、三回対称性の超分子集合体を開発したと発表した。センサーやメモリ素子、環境調和型デバイスなどへの応用が期待される。三回対称性とは、ある軸を中心に120度回転すると元に戻る性質。
三回対称性を持つ分子は、これまでにない機能性材料の創出が期待されている。しかし、三回対称性分子は配列の制御が極めて難しく、特に分子間の水素結合と分子配列の精密制御を両立させることが、大きな課題となっていた。
研究グループは今回、三回対称性を持つ「ヘキサデヒドロトリベンゾ[12]アヌレン([12]DBA)」を基盤とする分子を新たに設計。これを用い溶媒条件によって異なる超分子集合体を形成し、熱によりLM構造からNF構造へ変換できる新たな機能性材料を開発した。
分子中心に穴があるπ共役系分子[12]DBA骨格に、3つの長鎖アルキルアミド基(-HNCOC14H29)を導入することで、分子間水素結合と分子配列の精密な制御を可能にした。この分子は、溶媒条件で2つの異なる構造を選択的に作り出すことができる。
具体的に、トルエン中では3つのアルキルアミド基による水素結合ネットワークを形成し、一次元NF構造となる。一方、クロロホルム−アセトニトリル混合溶媒からは、2つのアルキルアミド基が水素結合に関与する二次元LM構造が得られる。この構造は、NF構造に比べ安定した熱力学的状態で、加熱によって不可逆なNF構造からLM構造への相移転を示すという。構造変換は約440Kで起こり、約2.2kJ/molのエネルギー差となっている。また、構造変換に伴って、光学特性も可逆的に変化することが分かった。
研究グループは、構造形成メカニズムを解析するため、分子動力学(MD)シミュレーションを行った。この結果、NF構造では3つのアルキルアミド基により、強い分子間水素結合ネットワークが形成され、一次元的な分子配列となった。一方、LM構造では、2つのアルキルアミド基による分子間水素結合と分子のパッキング効果のバランスによって、より密な分子配列となっていることが分かった。
今回の研究成果は、東北大学多元物質科学研究所の笠原遥太郎助教、出倉駿助教、芥川智行教授、信州大学学術研究院理学系の武田貴志准教授および、北里大学未来工学部の石井良樹講師、大阪大学大学院基礎工学研究科の久木一朗教授、物質・材料研究機構有機材料グループの姉帯勇人研究員、高井淳朗主任研究員、竹内正之グループリーダーらによるものである。
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