室温で紫〜橙色に光るp型/n型半導体を実現、東京科学大:次世代LEDや太陽電池向けに
東京科学大の研究チームは、考案した独自の設計指針に基づき、p型/n型半導体特性や光学特性を広範囲に制御できる材料を開発した。開発したスピネル型硫化物は、高効率の緑色LEDや太陽電池に向けた新材料として有用であることを実証した。
スピネル型硫化物が室温で紫〜橙色と広範囲に光る
東京科学大学総合研究院フロンティア材料研究所の半沢幸太助教と同元素戦略MDX研究センターの細野秀雄特命教授および、同フロンティア材料研究所の平松秀典教授らによる研究チームは2025年9月、考案した独自の設計指針に基づき、p型/n型半導体特性や光学特性を広範囲に制御できる材料「スピネル型硫化物」を開発したと発表した。開発したスピネル型硫化物は、高効率の緑色LEDや太陽電池に向けた新材料として有用であることを実証した。
発光ダイオード(LED)は、信号機や照明器具などの光源として広く普及している。ただ、現状では緑色域において光変換効率が低下する。このため、緑色を効率よく発光させられる新材料の開発が急務となっている。太陽電池においても、光をさらに効率よく吸収できる新たな半導体の開発が強く求められているという。
そこで研究チームは「高い対称性の化合物において、p型とn型の電気伝導性を有する」ことや、「直接遷移型で可視光領域において幅広くバンドギャップを制御できる」ことを、同時に実現するための設計指針を構築した。具合的には「立方晶であるスピネル型構造を有する化合物(AB2X4)を選択する」ことと、「Bにはd0電子配置を持つ元素、Xには硫黄を用いる」ことである。
考案した指針に基づいて適切な元素を選択した。この結果、スピネル型酸化物では価電子帯上端を形成していたK点付近のバンドが、スピネル型硫化物では、d軌道とp軌道の結合が強くなり、深い結合性軌道を形成した。これに対し、非結合性軌道からなる硫黄の3p軌道は、浅い価電子帯上端を形成するため、正孔をドーピングしやすくなるという。
今回の研究候補となったZnSc2S4のバンド構造は、意図した通りの直接遷移型になることを確認した。しかも、Mgなどアルカリ土類金属を除き、A位置が(n−1)d10ns0の電子配置でnが4以上の元素となり、分散の大きな伝導帯を形成。そのエネルギー準位が深くなり有効質量が小さい電子をドーピングしやすくなる。
実験では、(Zn1-xMgx)Sc2S4をターゲットに用い、固相反応法によってx=0〜1の試料を合成した。X値を変えることでバンドギャップは約2.1eVから2.9eVまで連続的に変化、発光波長はバンドギャップと一致した。つまり、室温において紫から橙色の範囲で連続的に発光波長を制御できたことになる。ちなみに、Mg組成x=0.3が緑色の領域だという。
さらに、ZnSc2S4へキャリアドーピングを行った。この結果、B=Scの位置にTiをドーピングするとn型半導体に、A=Znの位置に欠損を導入すればp型半導体になることも分かった。
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