ダイヤモンド量子センサーで「パワエレの高効率化」図る:交流磁気特性を数MHzまで可視化
東京科学大学とハーバード大学の研究チームは、ダイヤモンド量子センサーを用い、広い周波数帯域で交流磁気特性を可視化することに成功した。同時に、交流磁場の振幅と位相を可視化する手法を確立した。これらの成果を活用すれば、パワーエレクトロニクス機器の高効率動作が可能となる。
パワーエレクトロニクス機器の高効率動作を可能に
東京科学大学とハーバード大学の研究チームは2025年5月、ダイヤモンド量子センサーを用い、広い周波数帯域で交流磁気特性を可視化することに成功したと発表した。同時に、交流磁場の振幅と位相を可視化する手法を確立した。これらの成果を活用すれば、パワーエレクトロニクス機器の高効率動作が可能となる。
パワーエレクトロニクス分野では、動作周波数の高周波化が進む。ここで重要となるのが軟磁性材料の低損失化である。ところが、新たな磁性材料を開発する時に、従来の測定方法だと高周波域における磁気特性をイメージすることが極めて難しかった。
そこで研究チームは、ダイヤモンド量子センサーを応用し、メガヘルツ(MHz)帯までの高周波帯域を測定できる新たな手法を開発することにした。具体的には、キロヘルツ(kHz)帯とMHz帯で異なる量子計測手法を組み合わせることで、数MHzまでの周波数範囲で磁場をイメージングすることが可能となった。
実験では、ダイヤモンド中に形成した膜厚数マイクロメートルのNVセンター層が局所的な磁気センサーとして動作する装置構成を考えた。NVセンターが発する赤色蛍光をカメラで撮影し、磁場をイメージングする。特に今回は、量子操作に用いるマイクロ波の照射方法を工夫し、高周波帯域でのイメージングを試みた。
そして、kHz帯域を得意とする「Qurack法」とMHz帯域を得意とする「Qdyne法」を組み合わせることによって、kHz〜MHz帯における交流磁場の周波数を、カメラで追従可能な帯域までダウンコンバートできる技術を開発した。
動作実証の結果、100Hzから2.34MHzまでの広い周波数帯において、狙った通りの出力が得られたという。また、中川研究室が開発した高周波インダクター用のCoFeB-SiO2薄膜を用い、磁性体の交流磁気特性を測定した。
この試料には、高周波動作によるエネルギー損失を抑えるため、面内の磁気特性の非対称性(一軸磁気異方性)が付与されている。このため、面内のある方向と90度回転させた方向に磁界を加えると、全く異なる特性を示すことがあるという。
実際に、ある方向(困難軸方向)に磁界を加えると、100Hzから2.3MHzまでほぼ同じような傾向を示した。ところが、90度回転させた方向(容易軸方向)では、周波数の増加に伴って位相が遅れた。前者は「周波数に対して軟磁性材料中のエネルギー損失が一定」であり、後者は「エネルギー損失が増加する」ことを示したものだという。
研究チームは今後、開発した手法を用いて、より高周波帯域における測定精度の向上や空間分解能の強化を図っていく。さらに、磁壁ダイナミクスの直接観察や新規合金材料への応用などに取り組む計画である。
今回の研究成果は、東京科学大学工学院電気電子系の北川涼太博士(現在は富士通)や波多野睦子教授、岩崎孝之教授、中川茂樹教授および、ハーバード大学物理学科のAmir Yacoby教授らによるものである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
MRAMの省電力化につながるか 強磁性体の保磁力変化を確認
東京科学大学と住友化学は、強磁性体の自発分極による強磁性体の保磁力について、その変化を確認した。MRAM(磁気抵抗メモリ)の消費電力をさらに小さくできる可能性が高いという。超低電圧動作でエネルギー効率を大幅向上、PIM型アクセラレーター
東京科学大学は、推論時のエネルギー効率を飛躍的に高めるプロセッシングインメモリ(PIM)型のニューラルネットワークアクセラレーターマクロを開発した。EMP動作が可能なSRAMを採用し、推論時のエネルギー効率を164TOPS/Wにまで高めた。2倍のビーム数を制御できる無線チップを開発
東京科学大学は、ビーム数を従来の2倍にできる衛星通信機用「無線チップ」を開発した。衛星通信のさらなる高速化や通信エリアの拡大などが可能となる。全固体電池内のイオン伝導度を高速、高精度に予測
東京科学大とクイーンズランド大学の研究グループは、全固体電池や燃料電池内のイオン伝導度を、高速かつ高精度に予測できる計算手法を開発した。「非平衡MD(分子動力学)法」と呼ばれるこの方法は、従来の平衡MD法に比べ100倍も高速に計算できるという。量子センサーに向けたダイヤモンド結晶基板を作製
東京科学大学と産業技術総合研究所、信越化学工業らによる研究グループは、ヘテロエピCVD成長により、大面積のダイヤモンド結晶基板を作製、この基板を用いて高精度の量子センサーを開発した。EVに搭載される電池モニターや生体計測などへの応用が期待される。超高容量を実現 全固体フッ化物イオン二次電池用正極材料
京都大学の研究グループは、トヨタ自動車や東京大学、兵庫県立大学、東北大学および、東京科学大学と共同で、全固体フッ化物イオン二次電池用の超高容量正極材料を開発した。既存のリチウムイオン二次電池正極材料に比べ、2倍を超える高い可逆容量を示すことが分かった。