150GHz帯対応でも超小型 アンテナ一体型無線機モジュール:6G端末で大容量無線通信が可能に
東京科学大学は、情報通信研究機構(NICT)などと共同で、超小型かつ低消費電力を実現した150GHz帯端末向け「アンテナ一体型無線機モジュール」を開発した。これを6G端末に実装すれば、通信速度や容量をさらに向上させることができるという。
送受一体の無線機回路を新たに設計、4系統を1チップに集積
東京科学大学工学院電気電子系の岡田健一教授らによる研究チームは2025年6月、情報通信研究機構(NICT)などと共同で、超小型かつ低消費電力を実現した150GHz帯端末向け「アンテナ一体型無線機モジュール」を開発したと発表した。これを6G端末に実装すれば、通信速度や容量をさらに向上させることができるという。
6Gでは、より広い帯域を利用できるサブテラヘルツ帯の活用が計画されている。ところが、5Gで用いられているミリ波帯などに比べ、信号損失が大きくなったり、無線送受信器が複雑で大型化したり、製造コストが増大したりするなど、課題もあった。
そこで研究チームは、6G端末に向けて150GHz帯のAiP(アンテナインパッケージ)フェーズドアレイ無線機モジュールを開発した。このモジュールは、多層基板の表面に新開発の無線機ICを2個実装し、基板の端面に8個のアレイアンテナを形成した構造となっている。
特に今回は、ポスト壁導波路を用いたエンドファイア型アンテナにすることで、モジュール内の伝送距離を抑え損失を低減した。このモジュールは1個で8×1のフェーズドアレイ動作に対応できる。このモジュールを複数枚積み重ねれば、2次元のフェーズドアレイ動作が可能となる。
今回は、モジュールに搭載する150GHz帯フェーズドアレイ無線機ICも新たに開発した。送受一体の無線機回路を新たに設計することで、4.0×3.0mmというチップサイズを実現した。このICには4系統の送受信回路を集積しており、4個のアンテナを駆動できる。製造は最小配線半ピッチ65nmのシリコンCMOSプロセスを用いた。試作したICは、142〜164GHzで動作することを確認。1素子当たりの消費電力は送信モードで150mW、受信モードで93mWとなった。
研究チームは開発したAiPモジュールを用い、実験室内で実際に電波を飛ばして測定を行った。この結果、30cmの距離で最大データ転送速度は送信時56Gビット/秒、受信時40Gビット/秒となった。5mの距離ではQPSK変調時に20Gビット/秒の転送速度を達成した。
さらに、フェーズドアレイによる−45度から+45度のビーム掃引動作も確認。サイドローブの抑圧比は約−10dBであった。EIRP(等価等方放射電力)は154GHzで25.7dBmとなった。モジュールにおける単位アンテナ開口面積当たりのEIRPは10.4dBmであり、極めて高い電力密度を達成した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ダイヤモンド量子センサーで「パワエレの高効率化」図る
東京科学大学とハーバード大学の研究チームは、ダイヤモンド量子センサーを用い、広い周波数帯域で交流磁気特性を可視化することに成功した。同時に、交流磁場の振幅と位相を可視化する手法を確立した。これらの成果を活用すれば、パワーエレクトロニクス機器の高効率動作が可能となる。MRAMの省電力化につながるか 強磁性体の保磁力変化を確認
東京科学大学と住友化学は、強磁性体の自発分極による強磁性体の保磁力について、その変化を確認した。MRAM(磁気抵抗メモリ)の消費電力をさらに小さくできる可能性が高いという。超低電圧動作でエネルギー効率を大幅向上、PIM型アクセラレーター
東京科学大学は、推論時のエネルギー効率を飛躍的に高めるプロセッシングインメモリ(PIM)型のニューラルネットワークアクセラレーターマクロを開発した。EMP動作が可能なSRAMを採用し、推論時のエネルギー効率を164TOPS/Wにまで高めた。2倍のビーム数を制御できる無線チップを開発
東京科学大学は、ビーム数を従来の2倍にできる衛星通信機用「無線チップ」を開発した。衛星通信のさらなる高速化や通信エリアの拡大などが可能となる。全固体電池内のイオン伝導度を高速、高精度に予測
東京科学大とクイーンズランド大学の研究グループは、全固体電池や燃料電池内のイオン伝導度を、高速かつ高精度に予測できる計算手法を開発した。「非平衡MD(分子動力学)法」と呼ばれるこの方法は、従来の平衡MD法に比べ100倍も高速に計算できるという。量子センサーに向けたダイヤモンド結晶基板を作製
東京科学大学と産業技術総合研究所、信越化学工業らによる研究グループは、ヘテロエピCVD成長により、大面積のダイヤモンド結晶基板を作製、この基板を用いて高精度の量子センサーを開発した。EVに搭載される電池モニターや生体計測などへの応用が期待される。