「エッジで生成AI」が当たり前の時代に カスタムAIで導入を後押し:アラヤ Chief Engineering Officer 蓮井樹生氏(2/2 ページ)
エッジAIの導入が加速している。企業のエッジAI導入を支援するアラヤのChief Engineering Officerである蓮井樹生氏は、「エッジデバイスで生成AIが動かせる時代が来る」と語る。製造業へのエッジAI導入のトレンドや今後の課題について聞いた。
製造現場へのAI導入はこれから
――エッジAIの導入が特に進んでいる分野はありますか。
蓮井氏 最終製品への導入は活発だ。特に自動車は自動運転技術の進展でセンサーやカメラの搭載数が増えているのでAI処理との相性が良く、車内機能のパーソナライズに向けた取り組みが進んでいる。電化製品でもカメラを搭載してビジョンAIを行うものも出てきている。産業機器は、メーカーが顧客のデータを集められないことからなかなかエッジAIの導入が進んでいなかったが、AIを用いた品質検査の需要は大きいので、徐々に動きが出てきている。
一方で、導入がまだ進んでいないのは製造現場のDXのためのエッジAIだ。AIが今のように普及する前から製造現場では作業の効率化や在庫の可視化が進められてきたが、それでも完全には実現できていなかった部分にこれからAIが導入されていくことになりそうだ。工場で設置が進むクラウドカメラの高性能化も後押ししている。
「エッジで生成AI」が当たり前に
――今後さらにエッジAIの導入は加速していきそうですが、製造業の企業が抱える課題はどのようなものですか。
蓮井氏 昔から変わらない課題は「目標とする性能が引き出せない」というものだ。性能とリアルタイム性の両立という課題は小さいモデルや単純なタスクでも存在する。
新しい課題としては「生成AIをエッジに搭載したいが、ハードウェアに対してモデルが大きすぎる」というものがある。NVIDIAのGPUボード「Jetsonシリーズ」のように高機能なデバイスなら幅広く対応できるが、量産製品向けではやはりコストの都合で「マイコンを使いたい」というニーズがとても大きい。
アラヤはモデルについてもハードウェアについても専門知識を有しているので、各段階でサポートできる。モデル開発の段階では学習方法を改善するなどして精度を高める。実装の段階では、不要なニューロンや重みを削除してモデルサイズを減少させる「枝刈り」、モデル内の重みなどをより小さいビット数で表現する「量子化」、大きいモデルを学習元にして小さいモデルを作る「蒸留」などの手法で対応している。いずれにしても、細かい調整で性能が大きく変わってくる。
――エッジAIに関して、今後どのような動きが出てくると見ていますか。
蓮井氏 軽量かつ現場で利用できる性能のモデルも出てきているので、「エッジデバイスで生成AIが動かせる」という時代が来るだろう。これができない理由は単に処理リソースが不十分ということだけなので、ハードウェアの性能向上で解決される問題だ。
こうした時代に向けて、生成AIのチャットボット以外の使い方を模索している企業も多い。防犯カメラの映像をリアルタイムで文章化して問題が起きていないか判断するといった使い方が考えられる。同じように、天気や災害の状況説明にも利用できる。
蓮井氏 アラヤはカスタムAIソリューションを強みとしているので、モデル開発でも実装でも、引き続き顧客のニーズに合わせたソリューションを提供していく。クラウドAIのコンサルティングも行っているので、そうした知見を生かして生成AIのエッジ導入にも本格的に取り組む計画だ。AIアルゴリズムや実装に関する知識、そしてニューロテックも組み合わせて、世の中をあっと言わせたい。
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