ポップアップ切り紙構造の熱電発電デバイスを開発、早稲田大:高い柔軟性と発電性能を両立
早稲田大学の研究グループは、薄いフィルム基板に切り込みを入れて立体化する「ポップアップ切り紙構造」を考案、これを用いて熱電発電デバイス(TEG)を開発した。高いフレキシブル性能と発電性能を備えた熱電発電デバイスを実現できる。
人体など曲面熱源に対応、曲率半径0.1mm、延伸1.7倍の変形が可能
早稲田大学理工学術院の岩瀬英治教授や寺嶋真伍講師らによる研究グループは2025年10月、薄いフィルム基板に切り込みを入れて立体化する「ポップアップ切り紙構造」を考案、これを用いて熱電発電デバイス(TEG)を開発したと発表した。高いフレキシブル性能と発電性能を備えた熱電発電デバイスを実現できる。
IoTデバイスやウェアラブル機器では、熱や振動、光など身の回りにある微小なエネルギーを電気に変換して利用する環境発電技術が注目されている。例えば体温や機械などから排出される熱を利用する熱電発電もその1つだ。
既に、シリコーンゴムなどを基板材料に用いることで、曲面にもフィットするフレキシブルな熱電発電デバイスなどが開発されている。ところが、ゴム材料は熱抵抗が高いため期待する発電量が得られないなど課題もあった。このため、材料に依存せず「折り紙」や「切り紙」など構造を工夫することで、柔軟性を持たせる研究も進んでいるが、これらの方法は熱源への接触面が少ないなど、熱電発電デバイスには不向きだったという。
そこで研究グループは、フレキシブル性能と高い発電性能を両立させるため、「ポップアップ切り紙構造」を新たに考案した。非伸縮材料の薄いフィルム基板に切り線パターンを入れ、平面状態で熱電素子を実装した。その後、立体的に展開することで屈曲性や伸縮性を実現した。
試作した熱電発電デバイスについて性能評価を行った。この結果、曲げや延伸など変形を行っても平面状態と同等の発電性能が得られることを確認した。しかも、曲率半径0.1mmの変形や1.7倍の延伸変形にも対応できることが分かった。直角に曲がった熱源にも貼り付けて利用できるという。
試作した熱電発電デバイスに無線送信回路を接続し、センシングの実証を行った。人体に貼り付け、体温と空気の温度差で発電し、測定したデータを無線で送信することにも成功した。
研究グループによれば、開発したポップアップ切り紙構造は、細長く硬い熱電素子だけでなく、カーボンナノチューブ(CNT)シートなど薄膜の熱電素子にも適用できるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
Naイオン電池向け正極材料のポテンシャルを「富岳」で解明
東京科学大学や早稲田大学らの研究グループは、Naイオン電池の正極材料として注目されている多孔性結晶「プルシアンブルー(PB)」におけるNaイオンの拡散機構を解明し、その全貌を明らかにした。高精度な原子レベルの第一原理分子動力学計算(FPMD)にはスーパーコンピュータ「富岳」を活用した。
286.2GHz帯で72mのOFDM無線伝送に成功
早稲田大学の研究グループは、テラヘルツ帯に対応した無線通信システムを試作し、286.2GHz帯を用いたOFDM無線伝送としては世界トップクラスとなる72.4mの伝送距離を実現した。
AIで有機結晶の機能を向上 実験を73倍効率化
早稲田大学の研究グループは、分子設計と実験条件の最適化に2種類の機械学習を活用し、極めて効率よく光駆動有機結晶の発生力を高めることに成功した。従来方法に比べ、条件検索は73倍速く、発生力は最大3.7倍も大きいという。
層厚を制御した多層構造の人工強磁性細線を作製
岐阜大学と名古屋大学、早稲田大学、京都大学の研究グループが、層膜を制御した多層構造の「人工強磁性細線」の作製に成功した。人工強磁性細線を利用した大容量メモリや磁気センサーの開発などに期待する。
テラヘルツ帯の無線通信で長距離、大容量伝送に成功
早稲田大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、テラヘルツ領域に対応する無線通信システムを試作、4.4kmの通信距離に対し伝送速度4Gビット/秒という大容量伝送に成功した。
一次元構造のペロブスカイト結晶で大きな光起電力
早稲田大学と東京大学、筑波大学による共同研究グループは、一次元らせん構造のハロゲン化鉛ペロブスカイト結晶で、15Vを超えるバルク光起電力を発現させることに成功した。発生する電圧は、太陽光照射下における既存のペロブスカイト太陽電池の10倍以上だという。

