組み合わせ最適化がエッジで解ける「量子インスパイア系」ソリューション:自動運転車やドローンに
東芝情報システムは「EdgeTech+ 2025」(2025年11月19〜21日、パシフィコ横浜)に出展し、量子コンピュータ研究をもとにした組み合わせ最適化ソリューションを紹介した。小さい計算リソースにも対応し、組み込み機器上で実行できるものだ。
東芝情報システムは「EdgeTech+ 2025」(2025年11月19〜21日、パシフィコ横浜)に出展し、量子コンピュータ研究をもとにした組み合わせ最適化ソリューションを紹介した。
量子コンピュータ研究からインスパイアされた計算理論
多数の選択肢の中から最も良い組み合わせを選ぶ「組み合わせ最適化問題」。物流最適化や渋滞緩和などに活用できるが、問題の規模が大きくなると従来のコンピュータで全ての組み合わせを検証することは不可能で、並列計算が可能な量子コンピュータの活用が期待されている。
東芝グループは、量子コンピュータの研究の過程で、新しい解の探索原理で組み合わせ最適化問題を解く計算理論「シミュレーテッド分岐アルゴリズム(SBアルゴリズム)」を発見した。このアルゴリズムは量子コンピュータではなく従来のコンピュータでもシミュレートできるもので、同社はこれを生かして複雑で大規模な問題の高精度な近似解を短時間で得るためのソフトウェア「シミュレーテッド分岐マシン(SBM)」を開発した。
東芝デジタルソリューションズは現在、このソフトウェアを核としたソリューションを「SQBM+」としてクラウド上で提供している。金融や創薬などの大規模な問題に向けたものだ。
組み合わせ最適化技術を組み込み機器に搭載
SBアルゴリズムは計算リソースが小さい場合にも対応できる柔軟性が特徴だといい、今回は参考出展として、組み込み機器上でマルチオブジェクトトラッキング(MOT)を実行するデモを紹介した。多くの人が行き交う映像上で、同一人物に対して同じ識別番号を表示し続けるというものだ。ハードウェアはFPGAを利用している。
人物追跡は既に普及した技術だが、複数人物の重なりには弱点がある。人物Aが人物Bに隠れる瞬間があると、重なりが解消されても「Aが一度隠れてまた現れた」のではなく「Aは消え、別の人物Cが現れた」と認識してしまう場合が多いのだ。ここで同一人物の情報を保持できれば行動の予測がしやすくなり、無人搬送車(AGV)や自動運転車が人を回避することに役立つ。
人物追跡における同一人物の情報保持は、「過去に検出した複数人物」と「現在検出している複数人物」の対応関係から最もらしい1つを選ぶという問題なので、組み合わせ最適化ソリューションが利用できる。
「組み合わせ最適化問題へのアプローチにはAIも用いられる。目指すところは同じだが、AIは判断の根拠がブラックボックス化してしまう場合があるのに対し、SBアルゴリズムはルールベースなので一貫性があり、根拠を説明できることが特徴だ」(ブース説明員)
ブースでは、ミライズテクノロジーズと共同で開発しているという、組み合わせ最適化技術を組み込んだ自律移動ロボット(AMR)も展示した。
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