PFSAフリーのフッ素分子を設計する新技術を開発、名古屋工大ら:可視光を照射し分子骨格を再構築
名古屋工業大学の研究グループはスペイン・バレンシア大学と共同で、超原子価硫黄フッ化物「ペンタフルオロスルファニル(SF5)基」および、「テトラフルオロスルファニル(SF4)基」を導入したベンゼン誘導体に、可視光(青色LED)を照射するだけで分子骨格を再構築できる「骨格編集反応」を開発した。PFSAフリーのフッ素分子を設計するための基盤技術となる。
逆方向へ再変換するための骨格再編集にも適用可能
名古屋工業大学の研究グループは2025年11月、スペイン・バレンシア大学と共同で、超原子価硫黄フッ化物「ペンタフルオロスルファニル(SF5)基」および、「テトラフルオロスルファニル(SF4)基」を導入したベンゼン誘導体に、可視光(青色LED)を照射するだけで分子骨格を再構築できる「骨格編集反応」を開発したと発表した。PFSAフリーのフッ素分子を設計するための基盤技術となる。
フッ素を含む有機化合物は、医薬品や電子材料などさまざまな用途に用いられている。ところが、PFAS(難分解性有機フッ素化合物)と呼ばれる一部のフッ素化合物は、環境中でほとんど分解されない。このため社会問題となっていて、PFASフリーなフッ素化分子の開発が求められている。
一方、有機合成化学の分野では分子骨格を組み替えて、新しい構造を生み出す分子変換技術として「骨格編集」が注目されている。ただ、従来の手法だと収率が低いなど課題もあった。
研究グループは今回、SF5基とSF4基に着目した。これらの官能基は、トリフルオロメチル基(CP3)と似た電子的/物理的特性を示しながら、PFASには該当しないフッ素官能基だという。SF5基は分子末端の高機能置換基として機能する。SF4基は、直線的な2点連結部位として機能する。これら2つの官能基を組み合わせることで、これまでになかった「PFASフリー分子設計プラットフォーム」が実現する。
実験では、SF5基を有するアリールアジドに対し、フェノール存在下で可視光を照射したところ、SF5置換3H-アゼピン誘導体を、最大83%という高い収率で合成することに成功した。従来手法での収率は最大7%程度だった。
しかも、得られた3H-アゼピン誘導体に対し、トリフルオロ酢酸無水物(TFAA)あるいは、ジフルオロ酢酸無水物(DFAA)を作用させれば、逆方向(アゼピンからベンゼン)へ再変換可能な骨格再編集にも適用できることを実証した。
なお、開発した手法は、SF4基とアセチレン構造を有するアリールアジドに対しても適用でき、3H-アゼピン誘導体が高い効率で得られることを確認した。
今回の研究成果は、名古屋工業大学生命・応用化学類のChavakula Nagababu研究員(当時)や生命・応用化学科の村松拓哉研究生、共同ナノメディシン科学専攻3年のMuhamad Zulfaqar Bacho氏、工学専攻生命・物質化学プログラム2年のWu Shiwei氏、同プログラム2年の落合世舟氏、生命・応用化学類の柴田哲男教授および、バレンシア大学のJorge Escorihuela教授らによるものだ。
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