ML活用でナトリウムイオン電池材料の開発を効率化:高いエネルギー密度を実現
東京理科大学と名古屋工業大学は、過去の実験データを用いて機械学習(ML)モデルをトレーニングし、ナトリウムイオン電池(SIB)用正極材料の性能予測と合成を行ったところ、高いエネルギー密度が得られることを実証した。
SIB用層状酸化物68種類のデータベースを基にMLモデルを開発
東京理科大学と名古屋工業大学の研究グループは2024年11月、過去の実験データを用いて機械学習(ML)モデルをトレーニングし、ナトリウムイオン電池(SIB)用正極材料の性能予測と合成を行ったところ、高いエネルギー密度が得られることを実証した。
SIBは豊富な資源を活用できることから、リチウムイオン電池(LIB)に代わる次世代の蓄電技術として注目されている。こうした中で、SIBの性能を向上させるため、正極材料として用いられる「ナトリウム含有遷移金属層状酸化物」について、組成の最適化や特性評価に関する研究が進められている。
研究グループでもこれまで、O3型構造のナトリウム層状酸化物を合成してきた。そして、Na5/6[Mn1/6Ni1/3Ti1/3Fe1/6]O2が、正極材料としてエネルギー密度と容量維持率のバランスに優れていることを見いだしてきた。
今回は、長年蓄積してきたSIB用層状酸化物68種類(100サンプル)のデータベースを活用し、SIB用正極材料の組成や初期放電容量、平均放電電圧、容量維持率を予測するためのMLモデルを開発した。
実験では、MLで得られた結果に基づき、Na[Mn0.36Ni0.44Ti0.15Fe0.05]O2(MNTF)を実際に合成した。MNTF電極の定電流充放電試験(2.0〜4.2V)により、初期放電容量は169mAh/g、平均放電電圧は3.22V、エネルギー密度は549Wh/kgであった。この結果はMLの予測値とほぼ一致した。
ところが、20サイクル後の容量維持率は83.0%となり、予測値の92.3%と比べ低下した。これは、充放電反応中にMNTFの結晶構造が変化したり粒子が亀裂したりすることが要因とみられる。そこで、構造変化が生じない2.0〜4.1Vの範囲で充放電試験を行った。この結果、初期放電容量は146mAh/g、正極のエネルギー密度は449Wh/kg、20サイクル後の容量維持率は89.1%となった。
さらに、シンクロトロンXRD(SXRD)などを用い、合成したMNTFの組成や構造を評価した。この結果、「合成したMNTFがO3型構造であること」「実際の組成がNa[Mn0.355Ni0.442Ti0.148Fe0.046]O2であること」「MNTFの粒子サイズが直径0.3〜1μmの範囲であること」などが分かった。
今回の研究成果は、東京理科大学理学部第一部応用化学科の駒場慎一教授、同大学院理学研究科化学専攻の関根紗綾氏(2024年度修士課程2年)、同研究推進機構総合研究院の保坂知宙助教(現在はチャルマース工科大学 日本学術振興会 海外特別研究員)および、名古屋工業大学工学部生命・応用化学科環境セラミックス分野の中山将伸教授らによるものである。
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