ルチル型二酸化ゲルマニウムによる初の縦型SBD開発:理想に近い整流特性と低オン抵抗
京都工芸繊維大学らの研究グループは、超ワイドバンドギャップ半導体の「ルチル型二酸化ゲルマニウム」を用いた「縦型ショットキーバリアダイオード(SBD)」の開発に初めて成功した。作製したSBDは、理想に近いダイオード特性と低オン抵抗であることを確認した。
バンドギャップが約4.6eVと大きいr-GeO2の応用可能性示す
京都工芸繊維大学らの研究グループは2025年4月、超ワイドバンドギャップ半導体の「ルチル型二酸化ゲルマニウム(r-GeO2)」を用いた「縦型ショットキーバリアダイオード(SBD)」の開発に初めて成功したと発表した。作製したSBDは、理想に近いダイオード特性(理想因子n=1.14)と低オン抵抗(9mΩ・cm2)であることを確認した。
r-GeO2は、バンドギャップが約4.6eVと極めて大きく、高い絶縁破壊電界強度や両極性ドーピング制御の可能性も示されており、次々世代のパワー半導体用材料として期待されている。ネイティブ基板が作成できることも実用化にとっては利点になるという。ただ、r-GeO2の安定相制御が難しく、デバイスとしての動作実証がこれまでなされていなかった。
研究グループはこれまでの研究で、ミスト化学気相成長法(ミストCVD)と傾斜GexSn1-xO2バッファ層技術を用いて、TiO2基板上に単相のr-GeO2エピタキシャル層を成長させることに成功していた。今回は、この技術を応用した。
具体的には、ミストCVDにより非意図的にドープされたn型単層r-GeO2エピタキシャル層(膜厚約200nm)とSbドープn+型傾斜GexSn1-xO2バッファ層(同約150nm)を、Nbドープn+型(001)TiO2基板上に成長させた。その上で、試料表面にNiショットキー電極を、裏面にTi/Alオーミック電極を形成し、r-GeO2縦型SBDを作製した。
研究グループは、作製したNi/r-GeO2縦型SBDの「容量−電圧(C-V)特性」と「電流−電圧(I-V)特性」を測定した。得られたC-V特性により、ショットキー障壁の高さは理想の値に近いことが分かった。ショットキー界面の形成も理想に近いことを確認した。また、r-GeO2エピタキシャル層中の実効ドナー密度プロファイルも得ることができた。
さらに、I-V特性により試作したNi/r-GeO2縦型SBDが明瞭な整流性を有し、オン抵抗も極めて小さいことを確認した。順方向I-V特性により、理想因子は「1」に近い指数関数的に急峻な電流の立ち上がりを示すことが分かった。
研究グループは今後、結晶品質の向上や均一のドーピング制御技術の確立、厚膜成長技術の開発などに取り組み、r-GeO2デバイスの特性をさらに改善していく。
今回の研究成果は、京都工芸繊維大学電気電子工学系の鐘ケ江一孝助教、日本学術振興会(JSPS)特別研究員(PD)の島添和樹(現在は名古屋工業大学工学専攻電気電子プログラム助教)、博士前期課程学生の清家一朗氏、電気電子工学系の西中浩之教授らによるものである。
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