2026年半導体市場、成長は視野に入るが不確実性も残る ―― WSTS秋季予測をどう読むか:大山聡の業界スコープ(95)(3/3 ページ)
WSTSが2025年、2026年の半導体市場予測を更新し、2025年は前年比22.5%増、2026年は同26.3%増とした。AI投資が市場を押し上げる一方、PC/スマホなど主要アプリケーションの回復が遅れれば下振れの可能性もある。分野別の実績と背景要因から、予測の妥当性と今後のリスクを考察する。
メモリ:AI需要がけん引も、PC/スマホ回復がカギ
メモリの2025年市場規模は前年比27.8%増という予測。前回予測では同13.4%増で、ここからは上方修正されている。2025年1〜10月実績を見ると前年同期比27.0%増であり、おおむねこのまま推移する予測となっている。直近(2025年8〜10月)では伸び率が急伸しており、年間では前年比30%を超える可能性が高い。
メモリ市場はこれまで2018年半ば、2022年前半にピークを迎えており、4年で1周期のシリコンサイクルが繰り返されるのであれば、2026年のどこかでピークを迎える計算になる。しかし、今回のメモリ需要は今までとは異なり、AIによってけん引されている。そしてAI市場はまだ黎明(れいめい)期の段階で、現時点ではデータセンタ向けに需要が集中しているが、用途の広がりを見せるのはこれからである。NVIDIAというAI市場のけん引役が新たなメモリ需要を創出していることは明らかであり、この状態で果たして今までと同じタイミングでシリコンサイクルが発生するのだろうか。
WSTSは、2026年のメモリ市場を2025年比39.4%増、2025年を上回る伸び率で推移すると予測している。結論からいえば、この伸び率は達成可能といえるだろう。しかし、2026年後半にPC、スマホの需要が活性化することが条件、と筆者はみている。これまでのメモリ需要はデータセンター向けのみがけん引役として推移してきた。この需要は2026年も継続するだろう。しかし、メモリメーカー各社の設備投資も積極的に行われているのだ。メモリ市場が中長期的に伸び続けることは間違いないが、現時点ですべてのデータセンターがAIで利益を生み出せているわけではない。先行し過ぎた投資を見直すITベンダーも出てくるかもしれない。そのような事態が発生し、さらにPCやスマホの需要が相変わらず低迷していたらどうなるか。メモリ市況の需給バランスは、常に変動することを忘れてはならない。
2026年の市場は「成長可能だが慎重さが必要」
全体の結論として、2025年の前年比22.5%増というWSTSの世界半導体市場規模予測はやや保守的にみえるが妥当な範囲だろう。一方2026年の2025年比26.3%増という予測は「達成可能だが下振れリスクがある」というのが筆者の見解である。本来の半導体の主要アプリケーションであるPCやスマホ向け需要が盛り上がることで、最先端ロジックや最先端メモリだけでなく、半導体市場全体が盛り上がる。
現時点でAIPC、AIスマホなどに過剰な期待を寄せることは禁物だが、われわれの身の回りに新たな動きやニーズが盛り上がってくれれば、今度のシリコンサイクルは今までよりも少し「長め」になるかもしれない。決して「消滅」することはないだろうが――。
筆者プロフィール
大山 聡(おおやま さとる)グロスバーグ合同会社 代表
慶應義塾大学大学院にて管理工学を専攻し、工学修士号を取得。1985年に東京エレクトロン入社。セールスエンジニアを歴任し、1992年にデータクエスト(現ガートナー)に入社、半導体産業分析部でシニア・インダストリ・アナリストを歴任。
1996年にBZW証券(現バークレイズ証券)に入社、証券アナリストとして日立製作所、東芝、三菱電機、NEC、富士通、ニコン、アドバンテスト、東京エレクトロン、ソニー、パナソニック、シャープ、三洋電機などの調査・分析を担当。1997年にABNアムロ証券に入社、2001年にはリーマンブラザーズ証券に入社、やはり証券アナリストとして上述企業の調査・分析を継続。1999年、2000年には産業エレクトロニクス部門の日経アナリストランキング4位にランクされた。2004年に富士通に入社、電子デバイス部門・経営戦略室・主席部長として、半導体部門の分社化などに関与した。
2010年にアイサプライ(現Omdia)に入社、半導体および二次電池の調査・分析を担当した。
2017年に調査およびコンサルティングを主務とするグロスバーグ合同会社を設立、現在に至る。
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