AI半導体市場は「群雄割拠」の時代へ:NVIDIAはどう戦うのか(2/2 ページ)
AIで使われる高性能コンピュータチップ市場を独占しているNVIDIA。最近は、AIの各方面でライバルが登場し、NVIDIAの地位に迫ろうとしている。
半導体産業の“独立”を目指す中国
NVIDIAの課題は、米国が輸出規制を課したために、中国が国内に並列的な独立型エコシステムの構築を進めていることによって、ますます悪化している。Huaweiがこの国内インフラを主導することにより、極端紫外線(EUV)リソグラフィー装置の利用が制限される状況の中でも、代替アーキテクチャ戦略でそれを埋め合わせているのだ。
Huaweiの最先端チップ「Ascend 910C」は、SMICが深紫外線(DUV)を用いた7nm技術で製造していて、高い信頼性を実証している。レポートによると、学習ではNVIDIA製H100の60〜80%の性能を達成し、また一部の推論タスクではH100に比肩する性能を実現するという。
この性能を可能にしたのが“スケールアウト”設計だ。「Atlas 950 SuperPoD」のようなシステムにおいて、数千個規模のAscend NPU(Neural Processing Unit)を、新しい光リンク「UnifiedBus」経由で接続するという。このような高速ネットワークによって生産品質の低さが相殺され、高度なモデル学習を実現している。
しかし、そのような独立したコンピューティング性能を開発するにはコストが掛かる。SMICで製造しているAscend 910Cチップの歩留まりはわずか30〜40%と業界標準を大きく下回っているが、中国政府は戦略上の目的のために、このような損失を積極的に受け入れているようだ。
Huaweiの半導体子会社であるHiSiliconは2026年に、Ascendチップの新バージョンを投入する予定だという。第1四半期には「Ascend 950PR」を、さらに第4四半期にはそのハイエンド版の「Ascend 950DT」を発表するとしている。
ただしこのパラドックスは2025年12月に、さらに深刻化した。トランプ米大統領がNVIDIAの高性能チップ「H200」の輸出を承認し、規制の緩和を提示したにもかかわらず、中国政府が独自に厳格なアクセス規制を課す意向を表明したためだ。中国の半導体独立への取り組みを監視している規制当局は、NVIDIAでは2番目に高性能な世代のAIチップであるH200に関して、限定的なアクセスのみを許可する方法を検討しているところだ。
また中国は、メモリチップ製造も進展させている。ChangXin Memory Technologies(CXMT)は、2026年までにHBM3チップの量産を開始し、将来的にメモリ関連の制裁措置の影響を緩和する上でのサポートを提供することになるだろう。
多様な市場に投資し始めたNVIDIA
NVIDIAは、高い利益率を維持していく上での問題を抱えており、特にその原因がTSMCの生産制約であるということを認めている。このためNVIDIAは、Nokiaなどの電気通信インフラメーカーをはじめ、新たな市場に投資しているところだ。
NVIDIAはこうした課題があるにもかかわらず、2026年を通して、高利益率の高性能モデルトレーニング分野で主導的地位を維持していくとみられる。しかし、大量推論向けの幅広い市場では、大手クラウドプロバイダーのカスタムチップが優位を占める可能性がある。
次の主要な競争のターゲットは、半導体チップの接続性になるだろう。電気的接続が限界に達しつつあることを受け、商用製品では光接続が採用され始めている。MarvellがCelestial AIを買収したことや、Lightmatterのような企業がより高速なチップ接続に向けた3Dフォトニクスウエハーを提供していることなどから、2026年までに光接続が主要なAIチップの標準になるということが分かる。こうした移行により、BroadcomやMarvellのような企業が、主要サプライヤーとして位置付けられるようになるだろう。
NVIDIAが現在直面している課題は、用途特化型のハードウェアが急激に進む業界において、利益を維持しながら市場シェアを確保していくことだ。AIコンピューティングは将来的に、1社の企業による独占ではなく、高度な技術で接続された特殊システムを融合することによって定義されることになるだろう。
【翻訳:田中留美、編集:EE Times Japan】
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